とりあえず隣座ってろ。

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「ということでかんぱーい!!」

その後すぐに船は出港し夜の海に進みだした。カイトが来た時には既に酒や料理の準備ができていた。外はまだ寒いのでダイニングキッチンにクルーは集まっていた。宴会、ということを知らないカイトはただただ案内され用意された椅子に座らされぽかんとしていると馬鹿騒ぎし出すクルー。


「おめぇさんは何でこの船に入ったんだ?」

「っていうか名前聞いてねえな。俺の名前はな…。」

「キャプテンに刀渡されてたが剣士なのかい?」

「珍しい服装だなあ。インペルダウンの看守みてぇだ。」


転校生のような質問攻めにどうすればいいかわからずその場から逃げだすカイト。そんな姿をみて追いかけはしないが笑い始めるクルーたち。海賊にはない珍しいタイプだったからである。カイトは飲んでいるペンギンとシャチをみつけ2人の後ろに隠れる。


「ん? どうしたんだ。」

「…俺苦手なんだよ。知らねえやつと話すの…。」

「人見知りか。」


壁に背もたれ体操座りで辺りをうかがう。


「…なんかお前可愛いな。」

「は? からかうなら出ていく。」

「あーあ…。何やってんだシャチ。」

「思ったこと口に出したまでだ! ペンギンは思わなかったのかよ。」

「……少しな。」


すたすたと歩き部屋を出ていく姿を見ながら2人は口々に語った。廊下は氷のように冷めきり中の熱気が嘘のようで体中の体温が奪われるのが感じた。コツコツとブーツの音だけが響きわたり重い扉を開けると外は廊下以上に冷めきり闇で覆われていた。よく見ると見張りの者が1人座っていた。隣を通り過ぎ鉄で作られた柵に肘を置く。


「宴に出ねえなら寝てろ。酒は飲んでねえだろうな。」

「こんな体で飲めるわけねえだろ…。」

「わかってんならいいんだよ。」

「…お前は参加しないのか。」

「そのお前呼ばわりはやめろ。他人臭くて仕方ねえ。」

「キャプテンとでも呼べばいいのか?」

「呼ぶ気ねえだろ。」

「当たり前だ。」


やる気のない返事に鼻で笑うロー。元々、宴にはあまり参加はしない。いても数十分で出て行ってしまうほどだ。


「せめて名前で呼べ。」

「努力する。」

「………さっきから何考え込んでいるんだ?」

「たいしたことじゃない…、ほんとに海賊になったんだとまだ実感がわかないだけだ。」


刀を鞘から抜き指で刃をなぞる。ランプで反射し鋭く光る。使いこまれた刀にローは口を開く。


「…前いたとこで、何してたんだ?」

「……警官…ここでいう海軍みたいなもんだ。」


カイトの発言に驚き一瞬言葉を失う。


「そりゃ大失態だな。」

「だから迷ったんだ…入るか入らねえか。」


お前らが海賊なんかじゃなかったらもっと早く頼んでた、と言うカイトに笑うロー。


「自分は何故ここに飛ばされたんだと思う? 心当たりあるのか?」

「さぁな…。普通の生活おくってただけだ…。」

「普通の生活で人間殺しまくってたのか? 笑えねえ冗談だな。」

「…やはり海賊ってのはそういうのは敏感だな。」


刀を鞘に戻し腰に差す。はぁっと息を吐くと白い煙となり闇に溶けていく。自室に戻ろうと扉へ歩いていく。


「海賊ってのは、人を殺すのが当たり前なのか?」

「……殺さなくても海賊と名のりゃ海賊になるんだよ。俺の船はそんなもんだ。俺以外の奴には武器は持たせてねえ。」

「そうか…。なぁ、トラファルガー。」

「…なんだ。」

「もし俺が、誰か殺そうとしたら、止めてくれ。」


胸に何かつまったように苦しそうに言ったすぐに船内へ戻っていく。また1人残されたローの頭にはカイトのことだけがぐるぐる巡っていた。自室と言う名の治療室に戻り上着とブーツを脱ぎ捨て刀を壁に立てかけるなりすぐベッドに横になる。痛くないように態勢を整え目を閉じる。睡魔はすぐに体を襲い眠気に包まれる。人を殺さない、それだけでも幸せを感じ瞼を閉じた。
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