とりあえず隣座ってろ。

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朝、シャチがカイトの点滴の袋を取り換えているとピクリと瞼が動いた。ゆっくりと瞼を上げると見なれてしまったキャスケット帽子のシャチを見て目をこする。外は明るくなっており朝だということが一目瞭然だ。


「あ、起こしちまった。」

「……便所どこだ?」

「あーついてきて! 歩ける?」


寝起きながらもからからと点滴を引き連れシャチについていき用をたす。シャチはまだカイトに慣れないのかそわそわする。他の船員もじろじろと物珍しそうに見る者もいれば睨みつけたりする奴もいた。用を済ませ、部屋へ戻ると点滴を自力ではずす。


「服を返してくれ。外へ出る。」

「え、キャプテンから外出許可出てないはずだけど…。」

「絶対帰ってくると伝えろ。」


複雑な表情をしながらも部屋から出て行くシャチ。その間カイトは窓から島を眺めていた。数分がたち部屋へ戻ってきたシャチの手にはここへ来た時に着ていたカイトの服を持っていた。すぐさま着替えると船を降り島へと帰って行く。その姿を甲板から見ていたローとペンギンとベポ。


「いいんですか、返しちゃって。」

「…絶対帰ってくるよあいつは。」

「刀が人質みたいな。」

「それもあるがな…。」


ローの顔は自信に満ち溢れていた。本日の天気は雲1つない晴天だった。
街へ出たカイトは小さな家へ向かった。実を言うとカイトは家はなくその小さな家に住まわせてもらっていた。年期が入った扉を開けると50代くらいの夫婦がいた。カイトを見た途端吃驚した表情を浮かべる。


「カイト君! 昨日はどうして家に戻らなかったの?」

「すみません、少し用事ができてしまって…。」

「その包帯…昨日一緒にいた海賊の仕業か!?」


服から見え隠れしている包帯を見て声を荒げる夫婦。カイトがハートの海賊団にさらわれたという情報が島中に広まっていた。小さな島だからこそ海賊が来たらすぐさま警戒し注意していたらそこにカイトが登場し街は騒動していた。夫婦もはらはらと落ち着きがない様子だ。


「違うんです。あの海賊にあの時の怪我治してもらって…。」

「そ、それは本当なのかい?」

「脅されたのでは…。」

「大丈夫です。3か月もあれば治るそうです。」


ローの読みは当たっており街の医師の技術ではカイトの体は治せなかった。だが、ここに飛ばされてきたカイトを少しでも治療してくれた医師と助けてくれた住民。そんな人々の役に立ちたいと鎮痛剤をうち体を誤魔化しながらも夜の見回りや手伝いを行ってきたカイト。一番世話になっていた夫婦を目の前にして告白を決断する。


「俺、その海賊にお世話になろうと思うんです。」

「え、どういうことだい!?」

「…俺本当はここの人間ではないんです。本当の故郷に帰るために海賊船に乗って帰ろうと思うんです。身勝手で本当にすみません!!!」


痛みを忘れ頭を下げる姿を見て夫婦は呆気にとられ口が閉まらないでいた。


「今まで本当にお世話になりました。2人には感謝しきれません。ありがとうございました…。」

「…急すぎてわけがわからなくなったよ…。今日で行ってしまうのかい?」

「はい…。」

「海賊になるのは気に食わないけど、あなたは心が優しいからきっと大丈夫だと信じてるわ。」

「それに、やっと故郷を探す手掛かりが見つかってよかったな…。」

「え…。」

「いつも本屋に行っては調べてたからねえ。」


心配していた夫婦は優しく笑う。自分のことしか考えていなかったカイトは面食らった状態だった。その後、その話は一部の街の者たちに伝わって行き夜になると家の外には数十人の街の人が並んでいた。人々は励ましの言葉を吐き飛ばしていた。人の良すぎる人たちを見て苦笑いをしながらその場を去った。雪を踏みしめながら帽子を深くかぶる。しばらくすると黄色い潜水艦が見えローが立っていた。


「待たせるんじゃねえ。」

「うるせえ。」


スタスタとローの隣を通り過ぎ中へ入って行くカイト。身勝手な行動に笑いながら自分も中へ入り重い扉を閉める。


「何か言うことあんだろ。」

「…これからお世話になります。」


無愛想なカイトに再び笑いながらも手をカイトの頭に近づけた瞬間素早く叩かれたのであった。
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