不運はつきもの。
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「本当に申し訳ございません、センゴク元帥…。」
「お前が悪いわけではない、顔をあげろカイト。」
ボルサリーノと。
しぶしぶ顔を上げると、いつもより大きいセンゴクに首を痛めそうになる。不安そうなカイトの顔を見ると大きくため息をついてしまい、さらに眉を下げてしまうカイトにつるがきっとセンゴクを睨みゴホンと咳払いをした。
「報告は聞いている。開発班の薬が何故か…何故か誤って茶葉に入りいつも通り急須に入れ飲んだら縮んだということだな。」
「はい…部下の失態とは言え、責任は自分にもあります。このような姿でも書類くらいはできますので、戻るまで仕事に移りますね。」
「何でそんなに冷静なんだカイト…。」
「さすがこういう事には慣れてるね。だけどその前に…あんたたち〜!」
「え?」
襖が乱暴に開けられ入ってきたのは、つるの部下である女海兵たちだった。海兵たちはカイトの姿を見ると高い声を上げ駆け寄った。
先程の会話の通り、カイト体が縮んでいた。縮むというよりかは、若返ってしまっており推定15歳前後まで戻っているようだった。お茶を飲みみるみる若返ったカイトに青白い顔をした部下が慌てて元帥のところに運んだのであった。
「カイトちっちゃい〜! 本当に子どもになっちゃったのね!」
「可愛いわね〜お肌なんかすべすべのモチモチ!」
「こらこらお前たちいい加減にせい。さっさとカイトのサイズに合う服を着させてやらないと、風邪をひいてしまうよ。」
はい!と嬉しそうに返事をするとシャツだけ身を包んだカイトを抱え、部屋から出て行く女海兵。どうやら女海兵たちの自室に連れられると思ったカイトは大声でセンゴクに叫んだ。
「元帥! このことは内密に…特にクザンさんには!!」
「言われんでもわかっとる。これ以上ややこしくする訳にはいかないからな…はぁ…。」
女海兵の足音が聞こえなくなると、どうか何も起こらない事を祈るセンゴクであった。一方誘拐をされたカイトは用意されていた服に着替えさせられていた。正直、シャツ1枚ではみっともなかったので時間と手間をとらせた女海兵に心で感謝をした。が、すぐにその願いは消え失せたのであった。
「ちょ、ちょっと待ってください! 何ですかこのズボン! 膝上にもほどがあります!」
「これしかなかったのよ、ごめんね。」
「うん、サイズぴったり! 久々に縫ったけどなんとかなってよかったわ。」
「今縫ったって言いましたよね!? 確実に作りましたよね!?」
「でも靴だけはどうしてもこの短時間じゃ見つからなかったわね。どうしましょうか。」
「おい!! 聞こえてるだろ!!」
上は海兵が着ているものだが、ズボンは太ももが半分もさらけ出されており、両手で頑張って裾を伸ばそうとするカイト。完全に遊ばれているカイトはいてもたったもおられず、裸足のまま部屋を飛び出したのであった。こそこそと他の海兵に見つからないように隠れながら自室へと向かうカイト。子どもになったおかげか、気配を消しやすくスムーズに進めもう少しで着くというところで背後から声を掛けられた。
「君〜どこの子だい〜?」
「バレた!? …ぼ、ボルサリーノ大将でしたか…。」
「よくここまで入り込めたね〜只者じゃ…ん? どこかで見たような…。」
「うわっ! いきなり抱えないでください!!」
「…カイトかい?」
「ははは…そうです…まぁ色々ありまして…。」
突然抱きかかえられ、ぎゅっとボルサリーノの上着を掴むカイト。そう思ったらゆっくり降ろされ、ボルサリーノの背に回るように促される。訳もわからず困惑していると、よく知った足音が聞こえ思わず息を潜めた。
「よっボルサリーノ。」
「クザン、また部屋を抜け出したのかい〜?」
「休憩だって言ってるだろ? ところでカイトちゃん見てない? 部屋行ったんだけどいなくてさ。部下に聞いても知らないの一点張りだし。」
「さぁ〜ね〜? 見てないね〜?」
「だよな〜、じゃあな。」
ボルサリーノとのお喋りは終わり、さっさとどこかへ行くクザンにほっとするカイト。ただ、あの様子じゃカイトの経験上また自室へ来るのは確実である。どうしようと悩んでいたところ、ボルサリーノが頭の中を見たかのように向き合って話しかけた。
「カイト、戻るまで俺の部屋にいるかい?」
「…………そうさせていただきます。」
ボルサリーノの一言で自室への帰還は諦めたカイトは、少しでも役に立とうとお茶でも入れボルサリーノの机へ。来客用のソファにでも座って待っていようとしたら、ボルサリーノが手招きをするので急いで駆けつけると左太ももを叩いているので怪訝の表情を浮かべる。それを見たボルサリーノが軽々とカイトを持ち上げ、左太ももへと乗せた。
「あの、俺中身は変わってないのですが…。」
「まあまあ、ほらお昼まだなんでしょ〜? パンあるから〜。」
「は、はぁ…ありがとうございます…。」
手渡されたあんぱんを黙々と食べ始めるカイト。何を考えているかいまいち掴めないボルサリーノに悩みながらも、小さい手と口でもぐもぐ食べるカイトに癒されるボルサリーノであった。
「カイト〜またこんな事になったら俺のとこに来るんだよ〜? お前の周りには危ないやつばかりだからね〜。」
「お心遣い感謝致します!」
にっこりと子どもらしく笑うカイトにボルサリーノも同じように笑う。だが、座った事でズボンの裾が上がり太ももがさらに曝け出され、犯罪的ないけない感情が生まれる。絶対にこんな姿、いつもの奴らに見せてはならないと心に誓うと共に次はちゃんと足首まで隠れるズボンを用意させようと思うボルサリーノであった。
「戻るのはどれくらいかかるんだい〜?」
「聞いたところ後2時間ほどかと。」
その後もボルサリーノは書類をしながらカイトとの会話をし、手伝おうとするカイトだったがすぐに煎餅などのお菓子を手渡された不服ながら食べるのであった。のんびりとした時間が続き、1時間経った辺りでうとうとと船を漕ぎ始めたカイト。
「カイト〜眠いなら寝ていいよ〜?」
「い、いえ! 大丈夫です!」
声をかけられビクッと体を揺らし目を開けるカイトだったが、数分も経てば静かになり気付けばボルサリーノに寄りかかり寝息を立てていた。ソファに寝かそうとも考えたがなんとなくこのままでいいかと思い、バランスを取りながら書類に向かっていたところカイトの体が動き始めた事に気付いた。
「………戻ってってるね〜。」
少しずつ体が大きくなっていく姿を眺めるボルサリーノ。20歳を超えた辺りだろうか、服が窮屈そうだったので起こさないように全て脱がせる。あまりジロジロ見ないように、さっと正義の文字が入った上着を着させて起きるのを待った。が、すぐに静寂は破られた。扉を開ける音が部屋に響いた。
「おいおいボルサリーノ〜、全部センゴクさんに聞いたんだけど。さっき海兵たちが子ども連れて歩いていくの見たって聞いたんだ、け…ど…はぁ!?!? そこいるのカイトちゃん!?」
「ん…あれ俺寝てしまって…っ戻ってる!? てか服が!?」
「あんまり大声出すんじゃないよクザン〜起きちまったじゃないか〜。」
「起きちまったじゃないか〜、じゃねぇよ!! その美味しい感じなんだ! まるで愛人のようにしやがって!」
「すみません、ボルサリーノ大将色々とお手数を…。次からは起こしてください! さすがに恥ずかしいので…。」
「次もあったらすぐに呼びなさいね〜。」
「ちょっと! 話聞いてる!? 小さかったカイトちゃん見れなかったの根に持ってるんだからね俺!」
「…俺本当にボルサリーノ大将に拾われてよかったです…。」
「ほんとだね…。」