不運はつきもの。

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「くそっ! 海賊如きが!」

「イマイ少将!!」

「狼狽えるな! 今混乱をすれば相手の思うツボだ! 冷静に判断し、作戦通りに動け!! 一匹残らず海賊を捉えよ!!!」


ローと。


喜びと安堵の声が海兵たちの口から漏れる。先程まで海賊が島を荒らしているとの通告を受け、カイト率いる海兵たちは戦いの末勝利を収めた。海賊たちは海軍の船にある牢獄に抑えられ、海賊船の調査を行っていた。

「海賊はこの頃被害を拡大していた者たちで、生存は怪我人合わせ63名となっており先程全て牢獄され…。」

「…? どうした、続けろ。」

「っ、は、はぁ…。今現在海賊船内を確認しており1時間以内には終わるかと…。島の被害ですが…その、イマイ少将…。」

「さっきからなんだ、歯切れが悪い。何かあるなら、さっさと言え。」

「あ、そ、その…ではお言葉ですが、一度船医か町の医者に診て貰った方が良いのでは? 随分とお苦しいようであるように見えますが…。」

「なんだそんなことか、俺の心配は大丈夫だ。だが心遣いは素直に受け取っておこう、ありがとうな。」

ニコッと笑うとピシッと固まる海兵。裏腹にカイトは自分の症状に頭を悩ませていた。先程の戦闘で海賊の刀が頬をかすめ、そのあとから妙に身体の調子がおかしいのを感じた。勝利を確信した瞬間、カイトは膝をつき海兵が慌てた。心配は無用だと海兵には言い指示をしているが、どんどん苦しそうな姿になっていくカイトに焦りの色が見え始めた海兵たち。報告を受けていたカイトたちに別の海兵が慌ただしく駆け寄ってきた。

「イマイ少将、お話中失礼致します! 少将の体調が悪い原因がわかりました。刀によって頬に傷を受けた際、その刀に塗られていた液体が原因かと。」

「そういうことか…じゃあこれは毒の類か?」

「いえ、刀の所持者に聞いたところ、本人は毒だと言っていたのですがイマイ少将の反応をお伝え致しましたところ妙だと言っており、もしかすると近くに置いていた液体を間違えて塗り込んだかもしれない、と…。」

「たしかに、以前毒は受けたことがあったがその時とはまた別の感じがした。何を塗り込んだと?」

「命に別状はないとの事ですが…その…。」

「なんだ。言いにくいものなのか?」

「…巷で流行っている、媚薬…だと…。」

3人の間には沈黙が広がった。そんなものかと安堵の表情を浮かべるカイト。先程まで報告をしていた海兵はなるほどと1人納得していた。暑いのか、日陰の壁に寄りかかっているカイトは汗をかき、上着を脱いでネクタイを外しシャツを第2ボタンまで開き腕まくりをしていた。いつもきっちりとしているカイトではありえない服装であった。多少息が乱れ薄く唇を開き呼吸を行う姿は、いつも一緒にいる海兵までも鼓動が早くなるのを感じた。目線が合うと息が止まってしまうのではないかと思うほど目を奪われる。

「1日も経てば自然と治るだろ。とにかく今はこの場を早く…。」

「し、失礼致します!! イマイ少将!! 中心街の酒場でトラファルガー・ロー率いるハートの海賊団を目撃したとの情報が入っております!」

「なんだと!? 港に海賊船はないと確認していたはず…。近隣の状況は!」

「今のところ目立った行動はないとの事!」

「ご苦労。持ち場を一時的に離れられ、動ける者は俺についてこい! ハートの海賊団を捉える。本部にお前が伝えておけ。」

「し、しかし、そのようなお身体でいかれるのですか!?」

「動いた方が気が紛れる。だか、俺がこんなことになっている事は、本部には言わないでくれ。」

秘密、な? と口に人差し指を置き口角を上げると上着を着て早々に海兵を集め始めた。一方でそんな姿を見ていた海兵は真っ赤になり今日1日何も起こらないことを願った。

”ーーーイマイ少将、ハートの海賊団は未だ酒場から出てきておりません。また、近隣住民には避難指示を出しています。酒場の包囲は完了しました。突入許可をいただければいつでも。”

「了解。もう少しで着く。引き続き待機しろ。」

”了解いたし…!! ハートの海賊団が出てきました! こちらに気付き戦闘態勢になっています! ご指示を!”

「っ全体攻撃準備に入れ! 1人残らず捉えよ!」

”はっ!” がちゃり

「間に合わなかったか…皆急ぐぞ!」

カイトが目的地に着いた時には既に戦闘が始まっていた。先程まで違う海賊と戦闘を行っていた為、海軍側の数は少なく押されているようだった。舌打ちをすると連れてきた海兵に指示を出し目的の人物を探す。目に入った瞬間、カイトはすぐに飛びついた。

「っ!! もう来やがったか、不幸屋!」

「それは俺のことか? まぁいい、痛い目にあいたくなければ大人しくすることだな!」

カイトの蹴りはローの刀によって止められた。手配書の額と能力から見て長期戦は望めない。今の現状を見て不利なのは海軍側なので、とにかくカイトは目の前の男を早急に倒さなければと体に力を込めた。

「チッ、めんどくさい能力だな。」

「てめぇもしぶといな…”ROOM”!!」

「(やばい!)てめぇらその空間から今すぐ出ろ!!」

カイトが叫んだと同時に数名の逃げ遅れた海兵がバラバラにされる。間一髪のところで逃げ切れたカイトだったが、無残な海兵の姿に奥歯を噛みしめる。

「貴様…!!!」

「生憎俺らもあんたみたいな強者と長々戦うわけにはいかないからな。さっさと蹴りつけさせてもらうぜ!」

「(部下たちが多いここで戦うのは不利だ、人気がない場所に…!)」

仕掛けてくる前に先にローを路地裏へと蹴飛ばすカイト。咳き込みながらもすぐに立ち上がったローは迫ってくるカイトから一旦離れようと奥へと走る。カイトも懸命に追いながら人気がない場所を確認しながら仕掛けるタイミングを伺う。

「はぁ…はぁ…さあ行き止まりだ。どうする、ルーキー。」

「そりゃあこっちの台詞だ。不利なのは俺もお前も一緒のはず…ん?」

ローは始めてカイトの姿をちゃんと眺めた。戦闘しながら全力で走っていたとはいえ、今にも倒れそうなカイトに不自然を感じた。海軍本部所属の少将であることは確認していた為、この程度で倒れるとは相当思えない。だが現にカイトは汗を大量にかき、顔を真っ赤にさせ肩を大きく上下させながら息をしていた。違う海賊と戦っていたことは知っていたため、そこで何かあったのだろうと把握しありがたく思った。カイトも身体の限界が近づいていることを悟りながらも、目の前のローを仕留める覚悟で睨みつけた。殺気とカイトの視線を感じた途端冷や汗をかき、ゾクっとした感覚がローを襲った。

「(先に仕掛けなければやられる!)”ROOM"!!!」

「お前の動きはもう見切っ…しまった!」

「チャンス…! 」

ザクッ。カイトの左脚はローの技により切れ、瞬時に手元へと落ちた。逃げたカイトであったが左脚を失い、着地に失敗をし尻餅をついた。すぐさま自分の脚を確認するも、痛みもなく綺麗に無くなっている左脚に息を飲んだ。

「残念だったな不幸屋。噂通り、ドジっちまわなければ逃げれただろうに。」

「黙れ! てめぇ、ただで済むと思って…っ!!」

「自分の置かれている状況がわかって言ってんのか。」

歩いてきたローは喉元に刀を近づけカイトを見下ろす。屈辱に奥歯を噛み締めたカイトは素手で目の前の刀を握った。驚いたローはすぐさま刀を引こうとするも動く気配がなかった。握ったカイトの手からは血が滴り落ち、隙を見せればすぐにでも襲いかかろうとする姿に息を飲んだ。ふっと笑ったローは持っていた左脚の太腿を撫でた。

「っ!!」

過剰な反応を見せたカイトはパッと手を離し、その隙に刀を引き再度サークルを出し、右脚も切断をした。後ろに倒れそうになるカイトを見て、左脚と刀を地面に捨てカイトの両手首を掴み押し倒した。頭を打ったカイトは痛みに顔を歪める。

「っ、くそ! なんの真似だ! 殺すなら殺せ!!」

「まぁそんな熱くなるなよ不幸屋。お前、なんか盛られたな?」

「なんの話だ!」

「とぼけんじゃねえ。ただの体調不良かと思ったが…その状態を見ると違うな。」

「お前、何やって…。」

「さぁ、診察の時間だ。イマイ少将?」






水音と小さな呻き声が薄暗い路地裏を鳴り響かせる。もうどれくらい経ったのだろうと、上手く働かない脳みそで考えるカイト。すぐにまたチリっとした痛みと何とも言えないゾクゾクした感触が背を駆け巡る。そんなカイトを横目で見つつ、口を止めようとしないローはカイトの血で汚れた右手を綺麗に舐め終えるのであった。

「はぁ、はぁ…。(な、なんだこいつ…血舐めとりやがった…気持ち悪い…。)」

「…ふっ、消毒は終わったな。どうした? さっきの威勢はどこにいったんだ?」

「っなにが消毒だこのへんた、ひぃっ!!」

上の空だったカイトだったが、挑発的な言葉に我に帰るもすぐに耳をベロリと舐められ甲高い声を出す。情けない声を出してしまったと、元々赤かった顔がさらに赤くなる。そんなことも知らず、厭らしく舌で耳から首元、鎖骨付近まで舐め、吸われる。ゾクゾクとくる感覚に唇を噛み耐えようとするカイト。

「(相当強い薬を盛られたみたいだな。)海軍本部少将がこんなに乱れてるとは誰が思うだろうな?」

「っ誰が、んあっ!」

強い刺激に目を大きく広げる。ローが服越しにカイトの乳首を口で噛んだのだ。痛みはもちろんあったが、今までにない刺激が雷のように背を走り抜け弓のように背を反らした。気を良くしたローは左手を離し服の下から手を突っ込む。抵抗する様子のないカイトを確認し、右手も離してカイトのシャツをボタンが飛ぶのも御構い無しに無理やり引き裂く。現れたカイトの上半身は赤く染まり胸は上下に大きく動いており、じっとりと汗をかき乳首は赤く空に向かってとんがっていた。汗とカイトの匂い、目の前の官能的姿にローの頭はクラクラしていた。なぜこの男にここまで惹かれているのかロー自身わかっていないながらも手を出さずにいられなかった。そんな姿を見てカイトはローに抱きつく様に両手を首の後ろでクロスした。

「っ、おい不幸屋…。」

「はぁ、トラファルガー…今すぐ天国、見せてやるからな…。」

耳元で喋る声に下半身が疼いた瞬間、ローの目の前は真っ暗になった。






「…テン…キャプ…プテン…キャプテン!!!! 大丈夫!?!?」

「…ベポか…。おい、戦闘は…不幸屋は…?」

「俺が来た時には誰も居なかったよ。それよりキャプテン、海軍が応援連れてきたんだ! さっさとこの島出よう!!!」

「そうか…わかった。」

周りを見渡すと切り取った脚も無く、まるで誰もいなかったような感覚に襲われた。立ち上がると腹部に違和感を感じ殴られ気絶させられたことがわかり、ニヤリと笑うロー。キラッと道の端に光るものが見え拾い上げると、見慣れたボタンが太陽に照らされ白く光る。再度ベポからの催促がかかり、刀とボタンを持ちその場から駆け出した。




「はぁ…あいつ気絶させたら脚もくっついたし良かった…。ったくシャツ引き裂かれたとき心臓取られるかと思った…さすがに死ぬかと…。」

「イマイ少将! ご無事で…ぶ、無事じゃないーーー!!!?!?」

「(引き裂かれたシャツに首には鬱血の嵐…これは…まさかトラファルガーに!?!?)畜生! 俺らの少将にあいつ!!!」

「イマイ少将の綺麗なお身体が…あの海賊のせいでキズモノに…うう…許さねぇ…!!」

「そんな大袈裟じゃ…てか身体にキズなんてとうの昔からあるんだが…。」

「「「はぁあああ!?!? どこのやつにやられたんですか!?!?」」」

「??????」



「あいつが気に入ってるのもわかったな…。次会う時は絶対に最後までして俺のもんにしてやるからな、不幸屋。」

「…なぁペンギン、なんかキャプテンまた良からぬこと考えてない?」

「あぁ…何も起きないことを祈るだけだな…。」


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