不運はつきもの。
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「なぁ! 俺と一緒に船に乗らねぇか!!!」
「は?」
エースと。
青空に向かって背伸びをするカイト。正直仕事が残っているので非番を言い渡された時は仕事が落ち着いてからと言ってしまったのだが、元帥から命令と言われて仕舞えば口答えは許されない。いつぶりかもはやわからない非番だが、せっかくなので甘えさせてもらおうとふっと顔の力を緩めるカイト。
「ん〜とりあえず日帰りで帰れるところは来たけど…。のんびり飯でも食って温泉浸かって帰るか。」
海列車を見送り少ない荷物を持って中心部へと歩き出す。平和な島は今日も賑やかでふと笑みがこぼれる。大海賊時代になってからは海賊だらけで廃れた島も少なくない。このような平和な島を見るととても気分が良かった。とりあえず飯と、適当な店に入るカイト。誰でも入れるような店を選び、海賊がいないかチェックをする。非番だからとはいえ抜かりはない。席に着き一息ついたところで店内がざわつき始めた。
「おいお客さん、返事してくれ!」
「なんだなんだ、どうしたんだ?」
「いきなり食ってる途中でぶっ倒れてよ…。」
騒ぎの原因はカウンターに座ってプレートにに顔を突っ込んでいる男に群がる人たちだった。聞き耳を立てると何の拍子も無く倒れたようだった。おろおろしている店員や客にすぐさま席を立つ。
「君、大丈夫? おい。…意識がないみたいですね。この子病院に連れて行きます。何かあったら店にまた着ますので。」
「あ、あぁ。そりゃ助かるけどよ…あんた一体…。」
「海軍本部に所属しているイマイという海軍です。今日は非番でこんな格好ですが…それでは失礼しますね。」
すぐさま倒れた男を背に担ぐとすぐさま店を出て近くの病院まで走る。1分ほど走ったところで、男が異変に気付いたのか目を覚まし驚いた声を上げた。
「ん!? なんで外に!? てか誰だお前!!!!」
「目覚めたかい? 食事中に意識を失ったから毒でも入ってると思って…体は無事? もうすぐ病院着くから…。」
「病院!?!? ちょ、ちょっと待てストップ!!!!!」
男の叫び声が町中に響き渡る。その後、男は癖で食事中に寝てしまうということを聞き病院なら向かうことはなくなった。申し訳なさそうにする男に苦笑いしかできなかったカイト。
「すまねぇな、迷惑かけちまった。」
「いや、俺の勘違いでよかったよ。というかお前シャツ一枚って…しかも半袖、今日の気温10度下回ってるぞ。寒くないのか?」
「寒くはねぇな! これも見てる方が寒いから、って着せられたやつだし。なぁお前、名前は?」
「名前はイマイ・カイト。君は…。」
「きゃあああ!!! 誰かその男捕まえて!! 泥棒よ!!!!」
その時背後から2人を抜き去った男は大きな袋を持って走って遠ざかっていく。声がする方を見ると住宅の二階からその家の住民であろう女が叫んでいた。どうやら走り去っていく男は泥棒で二階から飛び降り逃走を図っているようだった。
「災難だったなぁあのおばちゃん。」
「立派な犯罪だ、捕まえる!」
「え、カイト!?!?」
豆粒ほどの大きさになっている泥棒を追いかけるカイト。突然走り出したカイトに驚きながらも一緒についていく男。港まで逃げた男はカイトに捕まり、ベルトで手首を固定し倒した。
「てめぇ!!」
「大人しくしろ、すぐに海軍を呼ぶからな…。」
「わ、ちょ、危ねぇ!!!」
「ん?」
その瞬間、どこからともなく現れた樽に足を取られ踏ん張ったと思ったが、解けていた靴紐を踏み男は倒れカイトが巻き込まれ海へ落ちた。突然の不運続きで吃驚する男だったがすぐに意識を失う。自分の体質のせいだとすぐさま気付いたカイトはすぐに落ちた男を担ぎ海上へ。海水を吸い重い服を感じながら男を先に陸へ上げ自分もそれに続く。
「おい、しっかりしろ。」
「おえ〜久々落ちた…だるい…っ! (顔ちけぇ! てかこいつ男の癖に、なんか、やべぇ!)」
「(この反応…こいつ能力者か?)」
ずぶ濡れのカイトが男の安否を確認の為顔を覗き込むと、なんとも言えない艶かしさに一瞬で怠い体が硬直する。能力者か否か聞こうとすると、ざわざわと騒ぎ声と共に、おい!!と怒鳴り声が響く。パッと2人が声の主を見ると40人ほどのガタイの良い薄汚い男たちが不気味にニタニタ笑っている。その近くには繋がれたままの泥棒が居たのでなんとなく把握はできた。
「良くも子分の仕事を邪魔した挙句捕まえやがったなぁテメェら!! ただで済むと思うなよ!!」
「兄貴、俺を捕まえたのはあの黒髪の男です!!」
「どれどれ…ってどっちも黒じゃねぇか!!!」
抜けた会話を繰り広げている泥棒集団に呆れた顔をするカイト。何にせよ、集まってくれた方が後の仕事が省ける。非番だったんだがなと思いながらも仕事モードに切り替え立ち上がるカイト。
「あ! い、今立ち上がった男です!」
「そっちのにぃちゃんか。…ほぅ、いい目しやがるじゃないか。てかなんで濡れてんだ?」
「座ってる男と海へ落ちてました。そのおかげで逃げれたんですけどね!」
「がはははは! 厄日らしいなぁ、これから俺らにもボコられるんだしよぉ!」
下品な笑い声に耐えられなくなり戦闘に入ろうと足を踏ん張り一歩前に進んだ瞬間、右手をぱしりと掴まれる。振り向くと男が立ち上がりスタスタと泥棒集団の方へ歩き出した。一般人が手を出していい問題ではないと制止するよう声を掛け、立ち止まる。
「一度だけじゃなく二度も助けられたんだ。テメェらの相手は俺だ。」
「待て君!!! これは俺の問題…っ、炎!?」
その瞬間男から炎が上がり男たちにその炎を向け半数を包み込んだ。悲鳴が上がると共にシャツを投げ捨てる。その背を見た瞬間息が詰まるカイト。
「(あの炎…背中の刺青…まさかこいつ)火拳のエース!?」
「おっ、カイト知ってんのか? 何か照れるけど嬉しいなぁ〜。」
「(気付かなかった…いくら非番とは言え油断しすぎた。火拳を捕まえないといけねぇが…。)」
「っ速!」
「…準備運動にもならねぇな。」
全く効いてない銃弾をエースに打ち込んでいた集団を、いとも簡単に地面に倒れさす。でんでん虫を使い近くの海軍に連絡しようとするも、集団と騒ぎを聞きつけた市民が既に呼んでいたようでモノの数秒で到着した。
「なっ…これは君たちがやったのか!?」
「それよりお前たちはすぐにこいつらを拘束し連れて行け。俺はあいつを捉える。」
「ん? …はっ! あ、あなたもしかして本部のイマイ少将でありますか!?」
「…あぁ、こんな格好ですまないな。そういうことだから宜しく。」
突然の本部の人間に騒ぎ立てる海軍だったが、すぐにエースに気付き戦闘態勢に入る。一部始終を見ていたエースはだから強かったのかと納得の表情をしていた。
「…というわけだ。大人しく捕まれば被害は少なくなるんだが。」
「おいおい、さっきに比べてえらくドライじゃないかカイト。助け合った仲だろ?」
「状況が変わった。俺は海軍、お前は海賊。意味がわからないはずねぇだろ?」
踏み込み、エースへ飛びかかるカイト。二人の攻防に手も足も出ない兵士たちは巻き込まれないよう犯罪集団をさっさと拘束し安全な場所へと運ぶ。
「やっぱ強ぇな! ますます気に入ったぜ!」
「そりゃどうも、俺は捕まってくれさえすれば気にいるんだけど、な!」
「ははっ、楽しいけどそろそろお別れだな。」
遠くの方から仲間の鳥声が聞こえたエースは一瞬の隙を見てカイトに近寄る。やられると思ったカイトはすぐさま体を硬くし防御しようと構えると、目の前にエースの顔が現れたと思ったら後頭部に手が回され唇に何かがぶつかる。ペロリと唇を舐められキスをされたことに気付き脚で蹴り上げる。その時にはエースは近くの屋根に登っており、カイトは睨みつけた。
「てめぇ火拳!! 何やってんのか…。」
「なぁ! 俺と一緒に船に乗らねぇか!!!」
「…は?? 牢獄行きの船にか?」
「ちげぇよ! 俺の仲間になって航海しようって話!」
「…どうやらバカの考えることはわかんねぇな。さっさとケリつけようじゃないか。」
「だって俺、カイトのこと好きだし?」
「……………は?」
「次会う時までに考えててくれよ!」
海賊は欲しいもんは力づくでも手に入れるけどな!と言い残し炎と共に消えたエース。固まっているカイトに見ていた海兵は冷や汗を流す。
「…どいつもこいつも舐めたマネしやがって…からかわれたからにはタダじゃおかねぇからな、火拳…!!!」
「「「(う、噂通りの鈍感だ…。)」」」
すぐさま全ての港に行くように指示をだすも、エースの姿はなくその日は苛々しながらもカイトの非番は終わるのであった。その後、海軍本部にまでカイトとエースの噂は広まり頭を抱える日が続くのであった。
「あああなんでこうなるんだ毎回!!!!!」
「次会った時はまた戦って、仲間になってもらって、ちゃんと名前呼んでもらえるように言おうっと。」