不運はつきもの。

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「あれ、スモーカー。」

「よぉ。」

「生きてたか〜! お前が本部に帰ってくるなんて珍しいじゃねえか!」

「お前も相変わらずだな。そろそろ報告書まとめねえと上がうるせえからな。」

「お前もやっとペンを握るということを覚えたか…長かったな…。」

「シメるぞテメぇ。」


スモーカーと。


本部を歩いていたら懐かしい背中を見つけ声を掛けるカイト。3ヶ月、いや半年ぶりだったかな?と頭をひねらせるカイトだったがスモーカーの顔を見ればどうでもいいかと笑って見せた。

「今日は提出した後は仕事あるのか?」

「いや、今日はこれで終いだ。」

「まじ! なあ久々に飲み行こうぜーヒナも丁度帰ってきてるからさ!」

「ああ? 明日も仕事だろうが。」

「そんな事言うなよー次いつ会えるかわかんないんだしさ、なあ〜?」

覗き込むようにお願いをするとはあとため息を吐き1軒だけだからなと言うとニコッと笑うカイト。昔からカイトのお願いには弱いことを、スモーカーもカイト本人もわかっていた。

「じゃあ俺ヒナ誘っとくからー! 終わったら連絡しろよ〜。」

「わかったから大声出すんじゃねぇ、さっさと行け。」

「(ふふ…スモーカーさん嬉しそう。)」

そんな2人のやり取りを見るのが好きなたしぎは、本部に戻ってきたと実感が湧いた。
そうこうしているうちに日も沈み、3人は合流し酒場で楽しく飲んでいた。3人は同期で階級は違えど昔からの馴染みでずっと腐れ縁のようなもので繋がっていた。

「ヒナのこの間捕まえた海賊の数知ってるか? 最高記録更新だろ〜!」

「もうその話何回目よカイト。」

「飲ませすぎたか…適量かと思ったんだがな。」

「疲れて回るの早かったのかも。」

「てめぇら人の話聞けよぉ!」

「「はいはい。」」

久々の光景に苦笑いをする店員たち。机に突っ伏したまま喋るカイトにやれやれといった表情をするスモーカーとヒナ。カイトは昔から酒に弱かった。もちろんカイトは自覚している為、外で飲む事はほぼなかった。だが酒自体は嫌いではなかったので、こうして2人と会える時必ずカイトは2人を誘った。2人より少し若いカイトにヒナもスモーカーも甘い為、誘いを断ることはないに等しかった。

「さて、結構いい時間になってきたところだしお開きにしましょう。」

「そうだな。」

「それと、カイトの世話も頼んだわよ。」

「…またか。」

「仕方ないでしょ。あんな姿で外歩いたら家にたどり着く前にボロボロになってるのがオチよ。」

そう言ってヒナが指差した方を見ると、トイレに行っただけのはずのカイトが酒まみれになりこちらを歩いているのが見えた。いつもの体質のせいか、店員か客に誤って酒でもぶっかけられたのであろう。しかも3度ほど。当の本人は大丈夫ですよ〜と言いながらヘラヘラしながら戻ってきている。いつものカイトだったならば自分の体質を理解し対策を練っているが、今のカイトだと帰り道にどんな仕打ちを受けるか分かりかねない。

「…はあ、まあそうだとは思ってたけどよ。」

「ふふ、じゃあ今日もよろしくね。カイト、帰るわよ。」

「そんな時間かぁ? じゃあ2人共また明日な〜、っぐえ。」

「お前はこっちだアホ面。」

「あんまり引っ張ると吐いちゃうわよ。」

「…ったく、いつまでも餓鬼だなこいつは。」

「はあ? 俺んちアッチなんだけど…。」

「じゃあおやすみ2人共、楽しかったわ。スモーカー君、くれぐれもカイトの明日に響くような事はしないようにね。」

「…何のことだヒナ。」

「ふふ、別に。」

「え、ヒナ送ってい…。」

カイトの言葉虚しく、街灯に照らされた道を歩いていくヒナ。後ろ姿を見送ったところでくるっと振り返りずんずん歩いていくスモーカーに右腕を彼の肩に乗せられている為、フラフラしながらも懸命に着いていく。10分ほど歩けばスモーカーの住む家に到着する。まだ足取りがおぼつかないカイトはリビングにドタッと倒れこむ。

「おいまだ寝るんじゃねえぞ。そのきったねえ服脱げ。」

「おぅ…。」

「……って結局寝てんじゃねえ!!!」

大きくため息を吐くと乱暴にカイトの酒まみれの服を脱がせていく。服はほぼ乾いていたが服を動かすたびに酒とカイトのにおいが鼻につくと共に、真っ赤な身体に半開きの口元、閉じられた瞼の無防備な姿に思わず目を逸らす。この行為自体今まで何度も行ってきたが、一向に慣れる気配はなかった。
脱がし終えるとさっさと寝室のベッドに放り投げシーツを被せ、シャワーでも浴びるかと背を向けた瞬間、シャツを引っ張られる感覚に襲われ振り返るとシーツから腕が伸びていた。

「水…。」

「テメェは…はあ、わかったから手離しやがれ。」

キッチンへ行き水をコップに入れ寝室へ戻る。カイトに言われると従ってしまう自分の甘さに胸焼けを起こしそうなスモーカーであった。

「おら、持ってきたぞ。」

「ん…ありがとう…。」

受け取ろうと手を伸ばすもすかっ、すかっと手は空を切る。頭上にはてなマークを飛ばしながら視野が定まっていないカイトの手は一向にコップを掴めそうにない。その様子を見たスモーカーはぼんやりと何かを考えぐいっと持っていた水を口に含み、カイトの顔前に近づいた。

「…ん?」

「…。」

「…あ? 何やって…、んんー!!」

口を開いた瞬間すぐに口同士を合わせ、口内に含んでいた水をカイトの口内に流し込む。同時に鼻もつままれ飲むしかなくなったカイトはごくんと水を飲み込む。飲んだことを確認すると口と鼻を離し、肩で息をするカイトを眺める。口元から垂れる水が何とも言えない雰囲気を醸し出してた。

「…(まずい、俺も酔っちまってたのか…? いくらカイトが記憶無くすとは言え何を…。)」

「スモーカー…。」

「!!」

「もう1回…(水…。)っん!!」

そう言った瞬間再度口を合わせるスモーカー。先ほどと違うのは水を含んでおらず、ただのキスであった。しかもカイトが力が入っていないことをいい事に、舌で口内や相手の舌を好き放題荒らす。

「ん、あ、んん。」

「っ、カイト、聞け。俺は…。」

ガクッ。カイトの顔が横へ倒れる。固まったスモーカーがカイトの肩を揺らすとぐぐもった声が聞こえ、寝息をたて始める。流石のスモーカーも額に手を置き頭を抱える。

「(寝込みを襲った罰か…。1度までも2度もやっちまった…手は出さねえって決めてたんだがな…。)」

カイトの顔にかかった前髪を指で払うと、寝室を後にするのであった。



「おはようスモーカー!」

「…先に言うことがあるんじゃねえのか?」

「本当にごめん! また酔いすぎたみたいで…。」

「…どこまでだ。」

「ん?」

「どこまで覚えてる。」

新聞を読んでいるスモーカーの目線がカイトに向けられる。うーんと唸り出すカイトに内心ハラハラする。

「正直酒場の途中から覚えてない。面目ない!」

「(…。)そんなことだろうと思ったぜ。さっさとシャワー浴びてきやがれ。」

「は、もうあんま時間ねえじゃん!」

急いでシャワールームに向かうカイトに複雑な感情を覚えながらも、いかんと頭を降るスモーカー。吸っていた葉巻を咥えながら身支度に取り掛かろうとしたところで、声を掛けられる。

「そういや水ありがとな! わざわざ持ってきてくれて。」

「!?!?! てめ、覚えて…!」

「な、何でそんなに怒ってるんだよ! まあ、覚えてねえんだけど、俺が持ってこいとか言ったんだろ? 寝室の机にコップあったし。」

「……。」

「ん? どうしたスモーカー…。」

「いいからとっとと入りやがれ!!」

「は、はいいい!!! (もしかして俺、夜にやらかした
感じ?! なんで覚えてねえんだよ俺…!! て言うかなんか今日口の中煙草の味すげえするな…。あいつ寝室でも吸ってんのか? ヒナに言って注意してもらうか…。)」
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