不運はつきもの。

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「…。」

「なぁ、イマイ少将この頃やつれてないか?」

「あぁ…このところ仕事量多かったしな…。」

「イマイ少将、お茶どうぞ。」

「あぁ、ありがとう。」

ビチャビチャビチャ。

「「しょ、少将こぼれてるこぼれてるーー!!!!!」」

クロコダイルと。

お茶で濡れてしまった机や椅子を拭き取る部下たち。書類も濡れてしまったので破れないようそっと干して乾燥させる。さっさと動く様をよくできた部下だとしみじみと死んだ顔で見守るカイト。

「すまない、少し気が散ってたみたいだ。午後までにこの半分は終われるよう進め…。」

「イマイ少将、お言葉ですがあなたまた徹夜されてませんか?」

「いやそんなことはない。きちんとシャワーも浴びてるし歯も磨いてるし食事も取っているし寝たし…。」

「それ本部にある簡易シャワー室使ったり栄養ドリンク飲んでるだけでしょう! 寝たのもどうせ仮眠室で数時間程度! 前回徹夜して医務室に運んだの俺たちなんですからね!」

「前回は5徹だっただろ、今日はまだ3徹目だ。」

「そういう問題じゃないうえやっぱり徹夜してるじゃないですか!!」

ああああと叫ぶ部下にはははと笑うカイト。その後部下たちが集まったかと思うとカイトを無理やり仮眠室へ放り込んだ。一連の流れについていけていないカイトは振り向くと目覚まし時計を渡された。

「お、お前ら…。」

「いいですか。そんな状態で仕事されても効率悪いだけです。午後には起こしますからしっかりお休みください。」

「え、いや大丈夫…。」

「誰も入らないようにしますから、それでは失礼します。あ、新しい服も用意しときます。」

パタンと閉められ、部屋は暗くなる。と言っても外は晴れているのでカーテンから透けた光が入り込み薄暗い空間に。仕方がないので眠ることを決めたカイトは粗末な簡易ベッドに倒れ込むのであった。

「ん…今何時…。」

どれくらい寝ていたのだろう。喉が乾いたので目が覚める。ぼーっとした頭で目覚まし時計を探そうと右手を動かした瞬間、もさっとこの場には絶対ないような感触が脳内を駆け巡り飛び起きる。

「っ、テメェ何でここに!」

「そんなに殺気立つな。なんかしてるならとうの昔にやっている。」

「…はぁ、招集でもかかってたのかクロコダイル。」

「まぁな。相変わらず時間の無駄にしかならなかったがな。」

「って言うかここは禁煙だ。さっさと消せ。」

攻撃してこないとわかるとまた枕に頭を預けるカイト。クロコダイルはベッドの淵に座りそんなカイトを見てフッと笑う。葉巻を消す様子は全くなく再度ため息をつく。疲れているせいか怒る気力もなかった。

「部屋にいねぇと思って見てみたら死んだように寝やがって。」

「忙しいんだ、ほっといてくれ。こんなとこ見られたら後がめんどくせぇんだよ。」

「連れねえなあ。こんなとこいなくても俺んとこ来れば睡眠くらいは確保してやるぜ。」

「死ね。帰れ。」

「クハハ! 大体そんな格好で言われたところで説得力も何もねぇんだよ。」

「………。」

改めて自分の姿を確認するカイト。そこには下着と着ていたシャツを全開にしただけのお粗末な姿だった。頭をフル回転させ記憶を辿ると、寝る前にこぼした茶がズボンとシャツにかかり、ズボンを脱ぎ捨てシャツはボタンを全て開けたこと思い出した。

「…おいなんでベルト壊れてんだよ、お前のせいか。」

「殺されてぇのか。てめぇのベルトなんか触る価値ねぇんだよ。どうせまた自分で壊したんだろが。」

「はあ…ベルトも持ってきてもらうか…。て言うかほんとに何の用だよお前…っゴホゴホ!!」

その瞬間クロコダイルが葉巻の煙をカイトの顔に吹きかけた。突然の煙に噎せて罵倒を浴びせようとした瞬間、両手をベッドに縫い付けられた。片方の手はフックのせいで圧迫感により痛みが体を駆け巡る。ギシリとベッドが悲鳴を上げる。

「前から気に食わなかったがよ…次は諜報機関の奴とは、どんな色目使ったらそうなる? カイト。」

「っ何であいつのことを…知らねえよ、ちょっと喋っただけで花束やらメッセージやら電話やら…殺りすぎて頭おかしくなってんじゃねえのかあの鳩野郎。」

「だったらおめえの周りは頭がおかしい奴ばかりだな、まあちげえねえけどな。…流石に期間が開きすぎか、残ってねえな。」

「何が…っ、い、った…!! だから何でテメェら噛みたがるんだっ…!!」

「人の物に手出されて上書きするのにとやかく言われる筋合いねぇな。」

「はあ!? 誰が物だ、ひぃ! な、舐めるな気持ち悪りぃ!!!」

「ぎゃあぎゃあうるせえな、色気ねえ声出すな。」

「んだとてめえ…!!」

ルッチにされた後、綺麗に治っていた首元付近に同じようにガブリと噛みつかれ、血が滲む。その後舌で舐められると感じたことのない感触に血の気が引く。流石のカイトも条件反射で左脚で蹴り上げようとするもクロコダイルの右手で阻止され、そのまま根元まで脚を撫でられる。

「っ離しやがれ、手をどけろ、っ!!」

「おうおう力が入ってないぜ。初めてか内腿触られんのは。いい表情じゃねえか。」

「くすぐってぇの通り越して気持ち悪りぃんだよ!! 無駄にでけぇ手しやがって!!」

「クハハ! そんな口叩けるのも今の内…。」

ジリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!!
ベッドの淵に追いやられた目覚まし時計が大音量で鳴り響く。固まった2人は扉の向こうに人が来る気配を感じ、カイトはサッと顔を青くした。

「おはようございますイマイ少将! ランチでも食べて元気に……。」

「チッ、壊しとくべきだったな。」

「…く、クロコダイル貴様イマイ少将の寝込みを襲うとは!! 覚悟しろ!!」

「ま、待てお前らじゃ勝てる相手じゃねえ!! 武器を下ろせ!!」

「まだ全裸じゃないところから少将の大事な所は守られているようだが、嫌がっているイマイ少将を見る限り合意ない性行為は許されるべき事ではない!」

「な、何が何だって!??! 性行為?! 勘違いだ!!」

「(こいつ何されるかわかってなかったのか?)…まあいい、時間はいくらでもある。精々次は万全な体力がねえと今日みたいにすぐに組み敷いてやるからな。」

「上等じゃねぇか…次会った時は俺が勝つ…!!」

「(少将…ここまでされといてまだ気づいてないのか…。)」

窓の隙間から砂になり消えていくクロコダイル。怒っているカイトを改めて見てもいつものきっちりとした服装とは裏腹にさらけ出された肌に思わずサッと目をそらせる部下たち。カイトは自分が思っている以上に扇情的なのに気づいておらず、今までのセクハラ行為を全てからかわれていると思っている。本人以外はそれに気づいており、部下や上司はいつも胃をキリキリさせている。当の本人が気づくのは当分後のことであるだろう。

「(でも今回のような事はごめんだな…。もう徹夜するのはやめよう。)」


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