ホエ面かかせてやる。
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生きている心地がしなかったあの頃、正しく生きる意味を教えてくれたのはお前だった。誰も信じられなかったあの頃、人を好きになるきっかけを作ってくれたのもお前だった。自分の力を必要としてくれた意味を教えてくれたのもお前だった。力だけが目的かもしれない。だけどお前が必要としてくれるんだったら、この力を餓鬼どもに尽くしてやるよ。
*
「おい、海斗どういうことだ!!」
騒動があった1時間後、森から青い炎が出たことによって騒ぎが正十字学園町の一部で始まった頃。海斗は現聖騎士エンジェルに呼び出されていた。8階にわたる海斗の住むアパートの屋上に2人は立っていた。
「はぁ? 何のことだよ。」
「とぼけるな!! お前には言いたいことが山ほどあるんだ!!!」
「んなこと今更言われても、それを承知で今日まで燐を含めて俺の事観察してきたんだろ?」
スパイ使って。そう言い放った海斗の目線はあの森から離れなかった。錆ついたフェンスにもたれかかるその姿にぐっと背を睨むエンジェルは奥歯を鳴らす。火災の原因でちらほらと暗闇の中で人の話す不安げな声が耳に入る。
「誰が承知などした…!! だが、それを言いに来たわけで呼び出したのではない。」
「………。」
「何故奥村燐を正式に弟子などにした。」
ぴくりとも動かない海斗。返答を無言で待つエンジェル。その途端、はは、と乾いた笑いが暗闇に響いた。
「早くね、もうばれてんだ。」
「本当のようだな。馬鹿な行為はよせ。お前も死ぬぞ。」
「聖騎士さんからの直々の忠告か、そりゃありがたいこった。」
「っ、お前な…!!!」
かつかつと大きな音を立て真っ白なブーツが響く。無理やり肩を手で引き正面をむかせる。すんなりとこっちを向いた海斗。顔を見たエンジェルは思わず固唾をのんだ。海斗の瞳は真っ直ぐ、己を見透かすように見ていた。
「俺は辞めるつもりはねえ。今度は俺が師匠の番だ。」
「…聖騎士の名において命ずる。その言葉を撤回しろ。」
「俺は死なねえ、あいつを、燐を聖騎士にするまで。」
「…それはそのサタンの子が藤本獅郎の息子だからか。」
聞く耳を立てない態度を示す姿にため息を1つはき、獅郎の名前を出す。開きかけた口を閉ざし硬直する海斗に眉間のしわを濃くする。すっと逸らされた瞳は先ほどの勢いはなく暗く荒んだ。
「またあの男か…死んだというのにまだ忘れられぬか。」
「…お願いだエンジェル、見逃してくれ。」
そう言い放った海斗は深々と腰を折りまげる。その行動に吃驚したものの、すぐに目を細め冷静に心を落ち着かせる。
「らしくないな、そこまでして執着する姿、初めて見たな。」
「………。」
「そんなに不安な目をするな、弟子に示しがつかんぞ。」
「え……。」
ばっと顔を上げると同時に海斗に背を向けるエンジェル。小さく風が舞い金髪の髪と白い服が優雅に動く。返答に戸惑い伸ばされた背筋を見つめる。
「今回、今回だけだからな。今後騎士團に影響を及ぼすようなことがあったらその時は奥村燐のことは諦め…うおっ!!!」
「サンキューエンジェル!!! 俺がんなヘマするわけねえだろ、まかせとけ!!!」
ぶつぶつとお許しの言葉を呟いていたエンジェルの背に思い切りおんぶをするような形で飛びつく海斗。数センチしか変わらない体系が飛びついてきてぐらつかないわけがなく、一歩足を前に出し踏ん張る。さっきまでの暗い表情はどこへ行ったのかにやにやと笑う。