とりあえず隣座ってろ。
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16歳。初めて俺は孤児院を出た。憧れていた職業に就職できた。最初は仕事に戸惑ったが大分なれてきた。最近は犯罪が増えてきている気がする。事務作業が多かった俺になぜか組手の時間が設けられた。話によると、いつどこで警察官が襲撃されるかわからないので、自分の身を守るくらいは習得しなければならないらしい。俺は納得して鍛錬に打ち込んだ。自分は昔からいじめられっ子でひ弱だった。なので心配だったが、そんな余裕はなかった。それが悲劇の幕開けだったのだとこの時の俺はまだ知らない。
*
「おーい! 生きてるかーカイトー!」
午前9時。4人部屋に2段ベッドが2つと4畳ほどの空間の部屋にシャチがマグカップを持って入る。窓から入ってくる太陽の光で部屋の1つ1つがよく見える。シャチが入ってきた瞬間、左側のベッドの下の段の白い塊がのそっと動いた。ぱたんと扉を閉め、覗き込む。
「っさい…、あんまでかい声出すな…。」
「はいはいごめんよって。おら、ちょっと体起こせって。うまいもん持ってきたから。」
「何も食べたくない…。」
「飲み物ぐらい飲んだって頭にゃ響かねえよ。」
カイトは、絶賛二日酔い中だった。朝の7時ごろ目が覚めたカイトはトイレに向かおうと体を起こした瞬間、急激に頭にきた痛みに耐えられずそのままベッドに倒れてしまった。体を起こしてやり、持ってきたマグカップを渡す。
「………甘い。」
「うまいだろ? 俺特製のはちみつレモンティー!」
湯気がたっているマグカップの中は綺麗な黄色で満たされている。痛みを和らげてくれている感覚に眉間の皺もなくなる。落ち着いた様子のカイトにほっとするシャチ。
「どうせ今日は掃除だけだし、ゆっくりしてろって。」
「でも、俺みたいにつぶれてる奴いるだろ…。掃除くらい…。」
「まーまー。そんな状態で掃除なんてできねえだろ? いるほうが迷惑だって。」
だから寝てろ。と少し乱暴に寝かせ部屋を去っていくシャチ。シャチの前では少々ムッとしていたカイトだったが1人になった瞬間口元が上がった。何かと心配してくれる人が傍にいるだけで心は温まっていた。
カイトが再び目を覚ました時、日は海へと沈みかけていた。窓から降り注ぐオレンジ色の光を見て、トイレ…と呟くのであった。
「おおっ、起きたのかカイト!!」
「…寝すぎた…。」
「はっはっは! まだ眠そうな顔してんな!!」
廊下ですれ違うクルー達に絡まれるカイト。眠そうなカイトを見てがしがしと頭を乱暴に撫でられたりからかわれたりと、随分と仲はよくなっていた。だが、クルー達の行動にいちいち反応できる余裕がないカイトは再び頭痛が始まり気分も悪くなっていた。
「わっ!! どうしたのカイト、顔青いよ。」
「ベポ………トイレ連れてけ…。」
その言葉を最後に、カイトは膝をついた。吃驚したベポはすぐさまカイトを背負いトイレに連れて行く。尿を出し終えたと思ったら、次に個室に入り便器に向かって思い切り嘔吐し始める。察したベポは背中をさするという何とも奇妙な光景。その後、他のクルーに発見され何とか胃の中の物をすべて出し切ったカイトは水で口の中を洗いスッキリしまた元のベッドに運ばれていた。ベポが心配そうにみつめていたが、感謝の言葉だけ述べて部屋から出て行ってもらった。
「久々の酒はきつかったか? それとも酒に弱いだけか?」
「……うるせえ…何しに来た。」
「俺にだけえらく刺々しいじゃねえか。」
「…………。」
「飯持ってきただけだ。」
2時間後、再び眠っていると唐突に部屋に入ってきたロー。そういって近くの小さなテーブルを近くに寄せてその上にトレーに乗った晩飯を置いた。その行動を見ていたカイトだったがローと目が合うとすぐ逸らした。無言でベッドに座るローに疑問を抱く。
「…ちゃんと食べるから出てけって。」
「なんでお前は俺だけに対してそんな態度なんだ。」
「何考えてるかわかんねーし…。」
「それがキャプテンに対する態度か。」
はぁと溜息を吐くローを横目に体を起こしてトレーに手を伸ばす。何事もなかったかのようにフォークを握りもぐもぐとパスタを食べていく。どうやら二日酔いは治ったらしい。
「…元気じゃねーか。」
「治った。」
「そうか。んじゃもう心配いらねーな。」
腰を上げてカイトに背を向ける。だが、カイトはローを呼び止めた。