とりあえず隣座ってろ。

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無表情になったのは大人になってからだった。昔の自分からは想像もできないくらい冷たい顔を作れるようになった。小さい頃は泣き虫でよく同年代の子にいじめられていた。そこでまた泣くものだからエスカレートする一方。そこでヒーローが登場する。オレンジ色をした綺麗な髪の毛が光に反射してやってくる。強い彼はあっという間に倒してしまう。へたり込んでしまった俺を立ち上がらせていつもの決め台詞、「大丈夫か?」。あぁ、なんで君はそんなに輝いているの。俺もオレンジ色に輝く髪の毛と湖のようなキラキラした水色の瞳になりたかった。暗い夜のような黒い髪と血の色をした赤い瞳が本当に大嫌いだった。







「おぉー! よく似合ってるぜ!」


町の服屋の1つで大声を発する海賊たち。ハートの海賊団一行は朝に島へ到着した。ログが溜まるのは2日。その間島で食料の調達やら何やら済ませる。カイトは仲の良いシャチとペンギンを連れられて服屋を訪ねた。


「こういう服は初めてだな…。」

「まだ慣れないだろうな。」

「あぁ…。白い服なんて餓鬼の頃以来来てなかったからな。」


ぴかぴかの新品つなぎに腕を通し新しい匂いに包まれる。初めて着るつなぎに若干興奮し自分が着ているつなぎの前や後ろをせわしなく見る。普段は無表情で冷徹なカイトからは想像できない姿にペンギンとシャチは無意識に微笑む。たっぷり堪能したカイト一行は店を出る。胸元の黄色い海賊印を一瞥する。島を歩き回り必要な物を購入する一方情報収集も欠かさない。


「…そう簡単ではないよな。」

「まぁまぁ、まだ始まったばかりだし気にすんなって。」


聞き込みを続けるもやはり有力な情報は手に入らない。簡単なことではないとわかっていたが落胆するものはしてしまう。先は長そうだとカイトは自分に言いつかせた。


「あ、知ってる? 今日からカイト俺らの部屋に引っ越しだぜ。」

「?」

「カイトがいた部屋は怪我人専用の部屋なんだ。本当は4人1部屋。」


思い返すと皆1つの部屋からぞろぞろと出ていく姿が見られていた。納得したカイトは再び2人との話に花を咲かせる。時間は思ったより早く経ち、時計の針は真上を向いていた。シャチとペンギンについていくと昼間というのに酒場に入っていくのを見て、改めてこの2人が海賊ということを思い知らされる。


「………。」

「ん? どうしたカイト?」

「早く座らないと席とられちまうぞ!!」


壁を見つめているカイトにつられて2人も見る。そこには様々な海賊たちの懸賞金が貼られていた。じっと見ているのはそこにローの顔があったからだ。


「8000万……。」

「またキャプテンの懸賞金あがってるよー。」

「ほら、こないだ倒した海賊船あっただろ。たぶんあれでだよ。」


ぺらぺら喋っている2人はとりあえず飯、ということでカイトを椅子へと座らせる。懸賞金を初めて見たカイトは8000万という多額の金額に吃驚、というか動揺した。


「あいつってそんなに強かったのか…。」

「キャプテンは当たり前だけど、俺らより強いしな。」

「あんな体薄いのにか?」

「カイトが言えることじゃないでしょ…。ていうか俺らみたいな戦い方じゃないし。」

「あぁ、刀持ってたからあれでばっさり?」

「んー…ばっさりていうかばっさりだけど、キャプテン能力者だし。」


能力者? カイトが口を開こうとしたらシャチが店員を呼び注文し始めた。店員が去り再び話しかけようとしたら話題は変わり話は違う方向へ。また聞けばいいかと思ったカイトはその後店員が運んできたチャーハンに口をつけた。


「とりあえず船、戻るか。荷物もあるし。」


店を出てペンギンの一言に同意し船へと歩き出す。ログが溜まるのは明日。まだまだのんびりできる。船に残っている奴らと船番でも交代しようと頭の中で考える。黙々と歩いていたら見慣れてしまった白熊がこちらへ向かってきた。


「あ、みんな〜。」

「あれ、ベポじゃん。キャプテンと一緒じゃねえの?」

「うん、はぐれたの。」

「お前もお前だがキャプテンもキャプテンだな…。」


溜息を吐くペンギンを見てベポが謝る。どうも初めてのことじゃないらしい。


「…刀、ベポが持ってんじゃねえか。」

「うん、持ったまま。」

「まぁ、キャプテンだし大丈夫でしょ。それより探そうぜ。」


あとでぶつくさ言われるの嫌だし、と吐くシャチ。何が大丈夫なんだとカイトは思いながらも歩き出した。
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