とりあえず隣座ってろ。
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匂いがとれない血が嫌いだった。それでも数えきれないほど見てきた血も今では見慣れてしまい、蔑んだ目で血溜りを踏んだ。服や顔、刀についた血は全て相手のものでありそいつは青白く倒れていた。ごめんなさい。自分で切っといて謝るのはおかしいことだよな。俺の言葉を聞いて地獄で突っ込んでいるだろうか。いや、俺を呪い殺す準備でもしているのだろうか。口周りについた血を舐めると嫌いな味が広がる。ああ、まずいまずいまずい!!!
*
カイトが海賊になり早2週間。船は順調に海を進んでいた。前の島から結構な距離を開いたため激しい気温の変化もなくなりちょうど良い気候に。船内は医療の勉強をするもの、仕事の当番で雑用をするものなど思い思いに行動していた。
「…次、どうぞ。」
「相変わらずつえぇな〜。」
甲板では数十人集まり騒動していた。修行というより力試しのようなことを1対1で勝負していた。その内の1人、カイトは次々と倒していきその数10人を突破したところだった。クルーも負けてられないと挑むも1分以内には床に叩きつけられるのであった。
「素手なのに強いなぁ。本職は剣士なんだろ?」
「まぁ…。体術のほうが経験は長いですので。」
「かぁ〜、かっこいいねえほんとカイトは!」
反応に困り苦笑いでその場をしのぐ。脱落したクルーはすぐに蹴り飛ばされ端に捨てられる。そこへ次は俺だ!と言い身構え戦闘を始めようとする。それを見たカイトは同様に構えようとしたが背後に気配を感じ振り向いた。待っていたのは口を固く閉ざし軽く睨みつけている船長だった。
「もうそんな時間か…。」
「時間は守れ。俺に迎えに来させるな。」
「あぁ、悪かった。」
「シャチ。お前今日の仕事サボって何してやがんだぁ、あぁ?」
「すいませんでした!!!!」
「お前が今日の見張り番やれよ。」
そんなーと嘆いているシャチを周りのクルーたちは笑い飛ばす。賑やかな甲板を出て2人は治療室に足を運んだ。中へ入ると薬品の匂いで溢れかえる。慣れた様子で椅子に座り診察を始める。
「…完全に繋がってるな。」
「まだ痛いけどな。」
「本当に化け者だな。」
手で骨をなぞる様に撫でる。約1か月で治ってしまったカイトの体に内心驚く。カイトが元にいた世界は治癒能力がローたちの住む世界に比べて極めて高く回復が早い。最近まではボロボロで歩くのが精一杯だったカイトもちゃんとした治療を受けた結果すぐに体は元通りになっていった。
「大まかなとこは治ってるがまだ激しい運動は避けろと言ったばかりだっただろう。」
「コミュニケーションは大切だろ?」
「自分の体を優先にしろ。断れるもんは断れ。」
ボタンを閉め部屋を出るとある部屋に向かった。その部屋は船内の端に存在し、中に入ると分厚い本が綺麗に保管されていた。大半が医療関係の物でその他は有名な著者の話や古い歴史などジャンルが違う本が並んでいた。何冊か手に取り床へ置く。次に随分前からとってある新聞を取り読み始める。どれもカイトには刺激的で時間を忘れて文を読み続けるのであった。
「カイトいるか?」
「!」
「またここにいたのか、もう8時廻ったぞ。」
外は暗くなっておりペンギンは呆れた顔をしていた。本や新聞を元に戻すと2人でダイニングキッチンへ向かう。
「何かわかったか?」
「何にも。ここの本には載ってないみたいだ。」
「そうか…。」
「読んでると夢みたいな世界で驚きで隠せねえよ。何が本当で何が間違いか全くわかんねえ。」
表情にはあまり出ないが声色は興奮しているのかぺらぺらといつも以上に話すカイトに笑うペンギン。少しずつであったが仲間意識を持ち始めたカイトに安心していたのが本音だった。まだまだ謎が多い異世界人に興味がないやつはいない。クルーは仲間としてそして好奇心でカイトに話しかけるであった。