ホエ面かかせてやる。
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よく猫に似ていると言われた。気まぐれで好き嫌いがはっきりしてるから。そんなことを言われたが断じて違うと思った。使い魔は蛇だしそんな理由で似ていると言われるのは心外だ。酒に酔ったときたまに猫の鳴き声のように鳴くじゃないか、と言われた時はぐっと黙ってしまった。癖だから仕方ないじゃないか。だが、頭や顔を撫でられるのは嫌いではない。自分はやはり猫なのだろうか。
*
学校の方は一学期が終了し、候補生はいよいよ本格的に実戦訓練が始まる。祓魔師になるためには時間はいくらあっても足りないため合宿で能力を高める。先に駅に着いていた雪男と海斗は無言で見つめあっていた。
「…海斗さん、必要最低限で持ってきてくださいって言いましたよね。」
「だからちゃんとこの量収まってんじゃねえか。」
「ただ数日合宿するだけで麦酒は必要いりません! アルコール中毒も程々にしてください!」
「アルコール中毒も程々ってどういうことだよ! 大体俺の何だから雪男には関係ねぇだろ。」
「海斗さん自身のことじゃなくて教師という自覚を持って…。」
「あ、燐たち着た。おーい、こっちだぞー。」
雪男の言葉をスルーっと回避し燐たちに向けて手を振る。そんな海斗に胃をきりきりさせる雪男。その後全員集まったところで説明し電車に乗り学園森林区域まで行くのであった。山登りは暑く過酷で誰もが弱音を吐くなか燐は元気に騒いでいた。目的地に着くと男と女で別れ雪男の指示に従い行動し始めた。海斗は女性陣の指示にあたった。
「(中々、この2人も面白い組み合わせだな…。)おっ、出来た? 早いなぁ、優秀優秀。」
「っ!(この男教師、ほんと苦手…!)」
「はい!」
魔法円の作画を終わらせた出雲としえみの頭を崩さないように撫でる。顔を真っ赤にさせる出雲ときらきらと憧れの表情を浮かべるしえみに笑みを作る海斗。可愛らしい2人に夕餉の支度を頼む。料理ができないと告げると男性陣の輪に混じる。
「あっちぃ…上脱ごうかな…。」
「っ、中に何も着ていないのに脱ごうとしないでください海斗さん!!」
「うおっ!! わ、わかったからそんな怒鳴るなよ!!」
「昔からあなたは無防備すぎるんですよ!」
「いっちょまえに心配すんなって。俺強いから。」
そういう意味じゃなくて…と口には出さず作業に戻る雪男。鈍い海斗にため息を漏らすしかなかった。その後全ての作業が終わり夕食を食べ始める。まだまだ高校生な彼らは子供のように騒ぎだす。笑い声が絶えない中、燐は特別嬉しそうだった。
「海斗! これ俺が作ったんだぜ、うめーだろ!?」
「(浮かれすぎだろ…、もうちっと危機感がなあ…。)へいへい見てたよ。うまいうまい。」
よしよしと頭を撫でてやると吃驚した表情をしたと思ったら顔を真っ赤にする。固まってしまった燐に眉を寄せ怪訝そうな顔をするとはっとして慌てて離れる。変な奴と思いながらカレーに食らいつくのであった。全員が食べ終わり円になり雪男が話し始める。
「…では、夕食が済んだところで今から始める訓練内容を説明します。」
「つまり肝試し肝試し〜!」
「…海斗さん、勤務中です。」
片手にビール缶を持ち既に顔が赤い海斗は機嫌よく笑う。雪男の眼鏡は曇っている。
「つか、その男18歳や言うてなかったか!? 未成年やろ!」
「18歳? 何をばかなことを。この人は今年でにじゅうろ…。」
「んー手ぇすべったー。」
カンッといい音を立てビール缶は勢いよく雪男の頭に直撃した。一瞬空気が凍りつき雪男の顔は先ほどの飄々とした表情から鬼のような顔になる。
「おい…仕事をしろよ…!!」
「(素が…。)」
「えー…では…説明します…。」
「怒った怒ったーあはははは!!」
我に返った雪男は馬鹿笑いする海斗をひとしきり睨むと教師モードに戻る。ペラペラと説明する隣で満足そうな顔をする海斗。そこでちらっと見てきた勝呂と目が合うととろんとした顔で微笑みかける。ばっと顔を赤くした勝呂はすぐに目を逸らす。その反応に不審に感じながらもアルコールに負けつつある海斗はつぶれかけていた。説明が終わるとさり気なく燐に近づく。
「オイお前! 判ってるのか、んー?」
「は?」
「今回は候補生の認定試験のようにはいかねぇんだぞー? 暗い森の中だ、一発でばれる。」
「おい…。」
酔った勢いで燐にぐいぐい近づく。酒臭さと顔を近づけられる燐は離れようとする。だが、肩にまわされた腕はピクリとも動かない。