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□いつもの君がいい
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ギルドが一斉に静まった。
いつものように喧嘩をしていたナツたちも、ラキと談笑していたジュビアも、シャルルに話しかけようと魚を片手に柱から顔を覗かせているハッピーも、皆一様に固まって、ギルドの入り口に視線を集めた。
そこには、1人の少女が立っていた。
緩やかにウェーブのかかった漆黒の長い髪。
白のドレスには、胸元や腰部分に上品なレースがあしらわれており、細い腕が伸びる短い袖は膨らんで、裾がきゅっとすぼまっている。
ギルドの視線に照れたのか、少女は大きな瞳に縁取られた長い睫毛をそっと伏せて、白い頬を赤く染めた。
清楚、という言葉しか当てはまらない。まるでどこかのお姫様のような少女に、全員息を飲む。
「…誰だ?あんた…」
最初に声を出したのはマカオだった。
マカオの問いかけに、何故か少女はさらに顔を赤く染めた。
腰から下の長いスカートはふんわりとしているが、腰から上はピッタリ体に沿っていて、少女の豊満な胸のラインがはっきりしている。
ガタッ
皆が少女の返答を待っ中、ずれた
マフラーを直しながら、ナツが立ち上がった。
そして、言う。
「何でそんな格好してんだよ。ルーシィ」
「「「ルーシィ!!?」」」
ボフッと少女――ルーシィの顔が全てが真っ赤になった。
「ミラの仕業だったのかよ」
20分後。
入り口付近で輪の中心になっている、黒い髪を流したルーシィを見つめながら、ナツは、いつもは彼女が座るカウンターに腰を下ろしていた。
うふ、とミラが笑う。
「ちょっと遊んでみたのよ。似合うでしょう?」
「似合うっつーか…」
似合う。それは認める。いつものルーシィとは違い清楚で、儚く見えた。
はっきり言って、キレイ。
でも、
ナツの心には何かが引っ掛かっていて、それがルーシィを囲む輪に入っていけない理由でもあった。
「いい女じゃねぇか」
「ルーちゃん可愛い!」
「見違えたなぁ」
「前から可愛かったけどな」
「大人っぽくなったわね」
面白くない。
会話が聞こえてきて、ナツはぶすっと顔を歪ませた。
ルーシィがち
やほやされてることが面白くない。
しかも男から。
実際にはレビィやビスカたち女性陣からも誉められているのだが―――今のナツにはそんなことは問題じゃないようだ。
ルーシィと話しているマカオたちを睨みつけている。
「…つまんねぇの」
「あ、ナツ」
ナツはスツールから立ち上がり、ずんずんとルーシィに近づいて行った。
邪魔な奴らをどかして、ルーシィの黒髪をつかむ。
「ナツ?どうしたの?」
「…こんなのルーシィじゃねぇ」
あ、とルーシィが呟いた時には既に、ナツは黒髪のかつらを奪い取っていた。
露になる、日に当たりキラキラ光る金髪。
まるでルーシィの明るさを象徴しているような色に、ナツは僅かに息を吐いた。
「ナツ…?」
「変わんなよ。ルーシィはそのままでいいんだから」
何の躊躇もなく言いきるナツに、回りのギャラリーが「言うようになったなぁ」「ヒューヒュー!」と騒ぎ始めたが、ナツは大人の冷やかしを無視し、ルーシィの金髪に触れた。
「や、ちょっと、こんなとこで何を…!」
「俺は
、」
ギルドに入ってきた時より顔を赤くするルーシィに、ナツは一歩近づいた。
熱い眼差しをルーシィに向け、口を開く。
「いつもの色気無ぇルーシィのほうがルーシィらしいと思う」
「一回死ね!!」
ルーシィをみんなに取られたくないだけ。
おまけ
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