memory.

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僕はこの男が嫌いだ。
性格はもちろんそれがもたらす趣向、言動、全てが嫌い。
だが一番の理由はこの男が池袋最強を世界で一番嫌っていることであり、この男を池袋最強が世界で一番嫌っていることである。

今回は僕は自分からその趣向に関わってしまった。
仕事だからだと言ったって、全く嫌な話しである。





間口紗理奈改め樫偽玲央





ぱたん、と女の子二人はソファーの上に倒れた。
瞼は閉じられ、口元は緩やかな直線を描いている。
その安らかな表情からしても、どうやらドリンクに混ぜられていたものは只の睡眠薬だったらしい。只の、と言ってもそのまま眠ってしまえばあの男に何をされるかわからないけど。

「玲央ちゃんだったんだ。久しぶり」

久しく会った嫌いな同窓生の挨拶は随分軽いものだった。
久しぶり、だなんて、この男―――折原臨也なら僕の行動くらい随時調べていそうだ。

「いやぁ全然気づかなかったなぁ。そんな服も化粧も煙草も玲央ちゃんに結びつかなかったよ。何?吸えるようになったの?やだな、シズちゃんみたいじゃん」
「吸えない。苦いの我慢してたんだよ。シズの吸ってる煙草を吸えないのはこのうえなく悲しいけどね」
「相変わらずの執着心だね。それにしても間口紗理奈が君だったんなら今までの行動にも納得が行くよ。つまらない人生経歴も、つまらない言動も」
「つまらない人生経歴なんて無いんだよ。勿論言動だって。それはあんたの主観ででの話しでしょう?」
「あれ?もしかして珍しく怒ってる?」
「まさか。あんたが嫌いなだけだよ」

意味のなさない言い合い。
こいつと言い合ったところで決着はなかなかつかないだろう。

一つ、深めの息を吐いて、僕はサングラスをかけ直した。
「そっちの“エリーさん”、貰ってくよ」
「ん、あぁ別にいいよ。そろそろサラ金に回すのもめんどくさくなってきたところだ。次で止めようかな」
「さっさと止めなよ。こんな悪趣味なこと」

ぐったりしているエリーさんに手を伸ばす。
あぁでもどうやって依頼主まで…もといこの人の父親まで運ぼうか。臨也みたいにトランクケースに積めるわけにもいかないよね。


「なに、家出娘を連れ帰ってきてとでも言われたの?たかが家出ごときに使われるなんて、玲央ちゃんも落ちぶれたもんだね」
「その現況を作った人に言われたく無いけどね。今回は父親がエリーさん…富川菜希さんのパソコンから自殺オフ会のサイトを見つけたから呼ばれたんだよ」
「はは、それは俺のせいだ」
「反省してよ」
「やだね。する必要が無い」

ムカつく。
心中でいろいろ暴言を吐き捨てて、手の中の富川さんを見やる。さっきから揺すったり叩いたりしてるのに全く起きる気配がない。
あたりまえか。臨也がそんな軽い薬を使うわけがない。

「面倒くさいことしてくれちゃって…」
「トランクケース貸そうか」
「…あんたと一緒にだけはなりたくないよ。…というか、臨也はそんな大きなトランクケースを三つも転がしてここをでるつもりだったのかな」
「ここの従業員は俺の息がかかってるんだよ」
「…あっそ」


だったら背負って出ても大丈夫か。もう夜も遅いし公園までなら大して目立つこともないだろう。


「もしかして背負ってこうとか考えてる?玲央ちゃん力無いのに」
「……いっらぁー」
「あ、怒った」


灰が散らされた灰皿でも投げつけてやろうかと思った。






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