memory.

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人間は素晴らしい。
俺は人間を愛してる。だから観察して観察して観察して観察して観察して、転がすんだ。
俺の手の上で。

最近やっている自殺オフ会は、その感情を満たすための趣味の一環だった。

ネットで見つけた自殺志願者達を集めて、カラオケボックスのような人目のつかない場所でオフ会を開く。

自殺オフ会とは本来集団自殺をするための会だが、もちろん俺自信が自殺する訳じゃなくて俺はただその人の“死”についての考え方を知りたいだけだ。

まぁ、大抵の人間はくだらない、俺の興味を擽らないことを口走るんだけど、そのあとは睡眠薬を飲ませて、お金を借りれるだけ借りさせてからどこかに売り払うのが最も無駄のない俺のやり方なんだけど。

とにかく、それが俺の最近の趣味だった。
それは当然のように今日も開かれたわけだけど。
今日は少しおかしな人間が釣れた。

黒いキャップを深くかぶり、真っ赤な口紅に黒いサングラスをかけ、露出の高い赤いカットソーに黒のミニスカートをはいている。

ヒールの高いブーツを履いているが、彼女自信はとても小柄で、大人びた服装がとても不恰好だった。

黒い髪は全てまとめてキャップの中に入れてあるようで、そこだけはけばけばしさはなく、すっきりとしていた。

街を彷徨く派手目なギャルとはまた少し違うような女。
彼女の加える煙草から登る紫煙に、俺は遠慮なく顔をしかめた。

「ねぇ、悪いけど煙草はやめてくれないかな。クロイロさん。僕、苦手なんだ」

嘘はついていない。俺は煙草を吸わないし、煙草は俺が世界で唯一愛せない人間を連想させるから、苦手だ。

だがそれだけではなく、彼女がどういった反応を見せるかも少し気になった。

気の強そうな女だ。うるさい、と怒るだろうか。それとも以外にも素直に謝るのだろうか。

だが、俺の予想はどちらとも外れた。

クロイロ――本名、間口紗理奈は、静かに灰皿に煙草を押しつけたのだ。
めんどくさそうにも、申し訳なさそうにも見えない。
サングラスに隠れ感情の機微は読み取れないが、動きはまさに機械的。

つまらない。

率直にそう思った。
間口紗理奈は事前に調べた経歴からしてもつまらなかった。
生まれてから東京を出たことはなく、小、中、高と近くの学校に通う女子高生。
いたって平凡で、強いて言うなら高校生のくせに煙草を吸ってる、と言うくらいか。
それでも別に不良と言うわけではないようだし、カラーギャングにも属していない。
普通。平凡。闇医者風に言うなら平々凡々。

つまらない。

俺は早々に間口から目を離し、隣に座る女性二人に移した。

この二人はまぁまぁな経歴だった。
茶髪の方は大手電気製品メーカーの親戚。
因みにその電気製品メーカーの社長とは昔会ったことがあり、いろいろ弱みを握っている。
もう一人の眼鏡をかけた女性は家出真っ最中。
仲の良い家庭で育ったが、逆にそのスリルの無い生活に飽きて家出をしたらしい。

全く系統の違う三人だが、共通していることが一つある。

それは三人とも“人生に疲れた”そうだ。

全く。たいした苦労もしていないような小娘が何を言っているのか。
世の大人たちが知ったら口を揃えて言うだろう。
だが俺は違う。
そういった人間は面白い。
死にに来た人間が、実はその死を利用されることになると知ったとき、この女たちはどう思うのだろう。
俺を憎む?ここに来た自分を恨む?それとも諦める?

あぁ楽しみだ。これからどうなるのかが。

俺がそんな狂ったことを思っているとは知らない女たちは、俺が並べた睡眠薬入りのジュースに口をつけたり宙を見つめたり携帯を弄ったり、思い思いに動いている。

さて、既に調べあげた自己紹介もくだらない自殺理由も披露しあった。
あとは、この女たちが今から自分の身に起こることを知り、顔を歪ませるのを楽しむだけだ。



三人の女たちに気づかれないよう、俺は口端をあげた。







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