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□家族、大切な人
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「あ、暦」



ある夏の日のことである。


外ではジリジリとした熱い日差しが体を焼いて鬱陶しいので、不健康ながらも家の中で涼しくすごそうとベッドの上で1日のスケジュールを軽く決め、リビングに降りてきた僕、阿良々木暦は、夏の日差しよりも鬱陶しい人間に捕まってしまった。

僕の姉、阿良々木睡蓮さんに。

今年で21になる睡蓮さんは、3年前…高校卒業と共に片田舎を出て東京の大学に通っていた。
彼氏と同居しているらしい。

年に2回くらい戻って来ていたのだけど、今年はまだ夏だというのに既に3回帰省してきている。

理由を聞けば、「暇だから」と答えるが、彼女の通う経済学部に暇など有り得ない。

だから嘘をついてることは家族みんなが見抜いていたけど、あんまりしつこく聞くと「帰ってきちゃ駄目なの?」とキレられるので追及はしていない。

別に無断欠席とかしてる訳じゃないみたいだし、親も黙っていた。

案外彼氏と喧嘩でもしたのだろうと思ってるかもしれない。


彼女、阿良々木睡蓮さんの容姿は弟の僕が言うのもなんだがかなり綺麗だ。
家族みんな直毛かくせっ毛なのに、誰から貰った遺伝子なのかふわふわのネコ毛に端正な顔。美しいとも可愛いともとれる顔立ちである。

成績優秀で、羽川には遠く及ばないが睡蓮さんの世代では小、中、高と学校で1番だったらしいし、大学でも5番以内をキープしているらしい。

もちろん大学も推薦で入った。

因みに剣道部主将で、全国準優勝者。

文武両道、品行方正の睡蓮さんだが、彼女にも一つ問題がある。


それは

「よぅ。何時になく遅い起床じゃん。そんなんだと将来はプー太郎だねぇ。にゃはははは」


中身と外見が全くそぐわないことである。


「…別に部屋で起きてたし」

「さっき部屋行ったときは腹だして気持ち良さそうに寝てたけどねぇ」

「来たのか!?」

「にゃはははは。何を焦ってんのさ。エロ本でも机の上に放置しちゃったかにゃー?なはは。放置だって。暦は放置プレイが好きだったかねぇ?」

「そんなことが好きだとも思わせるようなことも言った覚えはないし第一エロ本なんて出しっぱにしてない。睡蓮さん部屋に来てねぇだろ」

「うん行ってない」

「わざわざ嘘をつく必要はあったのか?」

「態態って形面白いよねぇ」

「わざわざを漢字にしなくていい」


わざわざ→態態。


「わざわざわざわざを態態と漢字にしなくていい…にゃはははははははは!!」

「睡蓮さん僕が言うのもなんなんだが頭大丈夫か!?」


今の言い回しの何処にそんな大笑いできる要素が。

今回帰ってきた中で一番笑ってるぞ。


…睡蓮さんは、性格がおかしな方向に曲がっている。

見た目だけならどっかの令嬢と言われても十分納得できるのに、口を開けばおやじ気質全開になってしまう。

今も片手にビール缶で机にタコの足置いてソファに寛いでいる。

起きるの遅いとか言いながら真っ昼間から酒食らってるあんたはどうなんだ。


別に、もともと彼女がこういう性格なら文句は言わない。仕方ないことだし。

でも、睡蓮さんは、‘自ら性格を変えた’のだ。

昔は…高校生になる前は、見た目通りの性格をしていた。

女の子らしく、己の髪のようにふわふわと笑う人だった…気がする。

駄目だ。今のインパクトが強すぎて昔の睡蓮さんを忘れかけてる。

とにかく、女の子の女の子、という感じだった。

けれど、ある日彼女は言った。


“見た目通りなんて、つまらない”


そう公言した翌日から、徐々に、徐々に、彼女の性格は変わっていった。

今は…数年前から見れば落ち着いてるが、一時は酷かった。

どう酷かったかはご想像にお任せするとして、とにかく彼女は、“見た目通り”というのが気にくわなくて、規格外になりたくて、自分で性格を変えた。


見た目とそぐわない人は他にも知ってる。

例えばヴァルハラコンビとか。

一人は先輩を愛して。

一人は秘密を隠すために。


でも睡蓮さんは、誰かを愛した訳でも、秘密を隠すわけでもなく、普通が嫌だったから、変えた。

それはもう、めちゃくちゃに。

度が過ぎるほどに。


変人、かもしれない。



見た目、功績は優秀。

中身はむちゃくちゃ。


それが僕の姉、阿良々木睡蓮である。
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