paint.
□サクラって本気で可愛いよね
1ページ/3ページ
「入学シーズンですねぇ」
真選組屯所のある一室。
山のような書類にペンを這わせていた燈芽は、思い出したかのように唐突に言った。
それまではずっとどちらも話していなかったので、本当に唐突である。
「?なんだ急に」
燈芽と同じく書類と向かいあっていた土方は、机を挟んで座る相方に返す。
「春だな。って」
「?まぁ…そりゃあな」
―――何を言ってんだ?こいつ…。
今が春なんてこと見ればわかる。障子が開けさらされたこの部屋からは、満開に桜を咲かせた大木が見えるのだから。
「春って…出逢いもあるけど別れもありますよね」
「…燈芽?どうした?」
「………土方ちゃん。…小生……最近心配なんです………」
いつもと様子が違う燈芽に、土方は書類の手を止めて燈芽をのぞきこんだ。
燈芽は俯きながらも、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「土方ちゃん……春は…春は…」
「春は………?」
「変な人が出やすいから土方ちゃんもその1人にならないか心配で心配で」
「ふざけんなァァァァァァ!!」
「ちょ、うるさい土方ちゃん」
「おま…ふざけんなよ!あんだけためといて結局俺を馬鹿にするんかい!!」
「ためすぎて話ずらかった」
「知らねぇよ!なんだお前シリアス感バリバリ出しやがってこの野郎!!」
「涙を流せなかったのは残念」
「死ね。お前いっぺん死んでこい」
「じゃあ次生まれ変わるときは土方ちゃんのガン細胞で」
「何生まれ変わってまで俺を殺そうとしてんだコラ」
「自分を犠牲にしてまで土方ちゃんを…って儚くないですか?尊い犠牲ですよ」
「無駄な犬死にって言うんだよ」
「ガンが発覚し病院に入院する土方ちゃんを銀時ちゃんがお見舞いに行きます」
「何で万事屋?」
「そこから愛は育まれ、2人は恋人同士に」
「気持ち悪い想像してんじゃねぇ!!」
「銀時ちゃんが自分の臓器をあげると言っているのに土方ちゃんはそれを拒む。そんなことをしてしまえば銀時ちゃんは死んでしまうから」
「俺は一体どこの臓器をお前にやられたんだ?」
「銀時ちゃんは悩む。最愛の土方ちゃんが死ぬのは耐えられないけど土方ちゃんは臓器移植を嫌がる。都合よく臓器提供者なんて現れないしこのままだと…。銀時ちゃんは悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで…それでも土方ちゃんが助かる方法は無くて、銀時ちゃんは悲しみにうち果てながら土方ちゃんを荒々しく抱い「黙れェェェェェェェ!!!」」
燈芽のめくるめく妄想の世界に終止符を打ったのは屯所中に響く土方のシャウトでした。
これ以上はまずい気がしたので。
「気持ち悪いって言ってんだろうが!!人の趣味にとやかく言う気はねぇけど回りの人間で想像すんのやめろや!!」
「想像ではなく妄想でーす」
「黙れ馬鹿女」
「あとね、土方ちゃん。小生は別に漫画とか空想のBLは求めてないんですよ。現実のBLを求めてるんです」
「余計タチ悪ぃよ」
「男の子が喘いでたら可愛くない?」
「…マジで黙れお前」
「はいはい」
「…で?最初の入学シーズンって話はなんだったんだよ」
土方は一旦区切りを入れて、聞き直す。
燈芽と話すと疲れるらしい。
休憩のつもりで入れてみた言葉だったが
「うん?ああ、特に何もないですよ」
何もないらしかった。
「とゆうか、そんなこのページの頭文をここに持ってこられても」
「お前が長々くだらねぇこと話すからだろ」
「え?銀時ちゃんと土方ちゃんのうはうは新婚生活の話のこと?」
「話変わってるぞ!急に幸せオーラ全開の話出すな!!」
「入院生活を乗りきったあとの話」
「う…ん…?おぉ……生きてたのか………って何で俺が安心しなきゃなんねーんだ」
「この話を書いた同人誌はなんと完売され在庫は骨の髄まで無くなりました」
「なんか日本語違ぇけどまぁ雰囲気は伝わった」
「その売上金額およそ300円」
「安!完売されたんじゃねぇのかよ!!」
「3部しか刷ってないですからね」
「大げさな言い方すんな!つーか3人もそんな本買いやがったのか………」
「あ、いえ。1人が3冊買って行きました」
「何で!?内容一緒だろ!?」
「嫌がらせに使うため燃やされてもいいように。だそうです」
「誰が買ったかわかったわ」
「まぁ小生は妄想を何かに残したりはできないのでもともとそんな本ありませんけど」
「当たり前だ馬鹿」
「がっかりした?」
「誰がするかたたっ斬るぞ!!」