plant.

□03
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強烈な体のだるさに目が覚めて、見えたのは木の天井だった。
木。木製ではなく、丸太を合わせたような天井だった。

視界を右へ。大きな窓とその奥に見える森林。
視界を左へ。瓶に入った沢山の草や花が並べられた棚と、大きな観葉植物。
そして、麻のローブを頭から被った小さな後ろ姿。

「……………おわっ!?」

ようやく状況把握。いや、把握はしてないけどさっきまでいた場所では無いことはわかった。
グレイは、一度目を擦ってもう一度ローブの後ろ姿を確認した。


緑草とお話


誰だ?こんな暑い日にくそ熱そうなローブなんか被って…。
まさか、こいつが魔女か…?

スッと、少しだけ振り向いたローブの人物が見せたのは静かな灰色の大きな瞳と、顔の輪郭を隠すようにローブからはみ出すふわふわの、胸の上まで流れた薄紫色の髪。

どう見ても、同い年くらいの少女だった。


「起きたんだ」


平坦な声で少女は呟き、グレイの寝ていたベッドへ歩み寄った。
右手をベッドに置いて、ぐっとグレイに顔を近づける。

「お、…い…」

顔色
を伺っているようだが、それにしては近い。近すぎる。

灰色の瞳がぐっと寄せられ、鼻先がぶつかりそうだった。
二人の息が混じり合う。

少女の日に焼けていない青白い手が動いた。
手が、グレイの頬を滑る。
その手に、どこか違和感を感じた。

白い割には温かい手。
するりと肌を撫でたあと、少女は三本の指先で触れた。
指先には力が込められ―――

むに

「………へ」

頬をつままれた。
母に怒られる子どもよろしく。
片側が上げられたグレイの口から間抜けな声が盛れた。

つかんでいる本人は、一度驚いたように目を開いてから、すぐに手も顔もグレイから離した。

「なんだ。動かないから死んでるのかと思った」
「そんなわけあるか!」


ちょっとびっくりしちまっただろうが!

口には出さずグレイは心中で叫んだ。
ありえないくらい近かった。ナツとルーシィじゃないんだから。

「ってそうだ!ナツ達は!?つーかここどこだ!お前は…」
「うるさい」

落ち着いて、次々に沸いてきた疑問を口にしたグレイは、少女に静かに一喝された。

「今、順に答えるから待って」

そう言って、少女は十畳ほどのこの部屋を出て行った。


「………なんなんだよ……」

あいつは誰だ。
まさか魔女か?

部屋の中にも関わらずローブを頭からから被り、部屋の状況からしてもここにすんでいる様子の少女。
窓から景色を見る限り、ここはまだ森の中。
そこまで考えたが、グレイはでも、付け足した。

自分が今寝かされていたのは、彼女のものだろう。
あのツルの攻撃が魔女のものでもそうでなくても、魔女ならわざわざ自分の家にはつれて来て、ベッドに寝かすのも不自然だ。


「魔女…なぁ」
「魔女?」

何時のまにか部屋の入口に立っていた少女が不思議そうに聞き返した。
その手には、湯気のたつカップが両手で握られている。


「それが、あんたがここに来た理由?」
「お…おぅ…知ってるのか?」

少女はそれには答えず、グレイにカップを渡してベッドに腰かけた。

「それ、ハーブティ」

飲んで。

促されるままにグレイはハーブティを口にした。



「…で、仲間がどうなったかだっけ」

少女は少しだけ右側に重心を傾けた。
ギシリとベッドが軋む。

「あんたが倒れていた場所はここから近い。たまたま花を採りに行ったら貴方が倒れてた。他に人はいなかった」
「崖から落ちたんだよ。…まぁ死ぬことは無いだろうが」
「大丈夫。崖下も見た。誰も死んでなかった」
「なんか言い方恐いな。…ま、助けてくれてありがとな。俺はグレイ。グレイ・フルバスター。妖精の尻尾の魔導士だ」
「………魔…導士…」
「お前は?」
「え?」
「名前」

優しく問うグレイに、少女はゆっくりと瞬きし、目線を下に落としてから口を開いた。

「…セルリナ……レイビィア」
小さく紡がれた名前は震えていて、何故か弱気だった。
だがはっきりと聞き取ったグレイは、ニッと笑う。

「セルリナか。ありがとな。助けてくれて」
「………」

別に。

今度は聞き取るのも難しいほどに極少量の声で呟いて、セルリナはベッドから立ち上がった。


「あんた、少し毒素の入った粉を嗅いだみたいだから暫く安静にしてて。多分長いこと思うように体が動かないだろうから」

出口に向かいながらセルリナは早口でそう言い、部屋を出て行った。



「…なんだ?」


急に放置されたグレイは、片手に収まる香り高い飲み物を、ズズズと啜った。






広がる、ハーブティの香り。








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