memory.
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<ほら、やっぱりね>
[樫偽玲央]
「あ、樫偽さんだ」
「……岸谷くん…!」
グラウンドに出た僕を、岸谷くんが笑顔で迎えた。
清々しいほどの笑顔。
会いたがってる子というのは折原臨也のことだろう。そして、折原臨也を平和島くんに引き合わせたのも岸谷くん。
ここにいるということは、さっきの情景を見たはず。
なのに、
なんで笑顔を張り付けてるの?
「…何があったの?どうして折原臨也が…」
「僕臨也と中学校が同じで、あぁ、静雄とは小学校だったんだけどね。静雄の話をしたら会ってみたいって言うから」
「…会わせたんだ」
「うん。でもなんかすごいことになったねぇ」
「………」
「何?」
「…何でもない」
そんなもの、なのかもしれない。
友達なんて。
「そうだ。樫偽さん。君に臨也から伝言」
「折原臨也から?」
僕がどこか寂しさを感じているなんてことはつゆしらず、岸谷くんは朗らかに言った。
「平和島静雄も、化け物だよ。君のお兄さんと一緒でね。…って」
「…は?………あ……っ…?」
その伝言に、僕は混乱する。
上手く言葉が出なかった。
何?折原臨也ってなんなの?
なんでなんでなんで…なんで…っ平和島くんが化け物って?あぁあの怪力のことか。え?なんで折原臨也は僕の兄のことを知ってるの?あの人は誰?あの人に会ったことなんてないよね?そうだ。あの人とは過去に知り合ってない。中学校にも小学校にもいなかった!じゃあなんで
…なんでなんでなんでなんでなんで!!
「……っ」
………落ち着け。
一呼吸置いて、…混乱しすぎた脳に酸素を送って、僕は思い出す。
いや、思い出すと言うより自覚すると言う方が正しいか。
平和島くんが化け物だとか、折原臨也がなんで僕のことを知っているのかとか、退学とか停学だとか玄関の掃除だとか岸谷新羅だとかセルティだとか山村先生だとかクラスメイトだとか不良だとか全部全部
気にしちゃいけないんだ。
関わっちゃいけないんだ。
一度関わったら、戻れなくなる。
目的はそこじゃない。高校生活なんて、有って無いようなものにしないといけないんだから。
特にあの折原臨也には、絶対関わっちゃいけない。
「も、ってどういうことなんだい?もしかして君のお兄さんも化物だったりするのかな。静雄みたいに体に異常があるとかなら一度解剖させてくれないかな!?」
「無理」
興奮混じりに怪しいことを良い、眼鏡の奥の瞳を興味津々に輝かせる岸谷くんを一蹴して、僕は彼に背を向けた。
「あれ?帰るの?静雄を追わないのかい?知り合いの仲だろう?」
「小学校からの付き合いのくせに悠長に笑ってるあんたに言われたくないよ」
一度、平和島くんの血が数滴落ちている砂を一瞥してから、僕は、微笑んだ。
「僕には、関係無いことだよ」
家へと、歩く。
「今のは背筋が凍る作り笑いだったねぇ」
岸谷くんが笑顔のまま呟いたことには、気づかなかった。
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