memory.

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<普通に、>


[樫偽玲央]




来神高校に入学して最初に思ったことは、“静かに学校生活を送ろう”だった。
クラスの影のような存在になる。
もちろん友達もつくらない。
学校生活だけじゃなく、社会に出ても僕はそんな存在でいたい。
その方が都合がいいから。
なのに。

「はぁ…は……はぁ…っ」
「待てやぁぁ!!」

…どうして僕は男達に追われてるんだろう。
狭く暗い路地裏に身を滑り込ませながら、僕はふと思った。
答えは簡単。こうなったのは全部、折原臨也のせいだ。
短ランに赤いシャツの、ニヤケ面を張り付けた男を思いだし、心底溜め息をつきたくなった。

…だからあいつには関わりたくなかったのに。

僕の場合、だいたいの人間には関わりたくないのだけど――そんな事実を再確認したところでこの状況は何も変わらない。
とりあえず、逃げる。
背後から聞こえる20人近くの男達の罵声を聞きながら、僕はとにかく足を動かした。








♂♀








一週間前。
東京都池袋私立来神高校入学式。
入学式特有の、知らない人間ばかりのクラスがために発せられる緊張感を鬱陶しく感じる。
とは言っても既に放課後なのでクラスに大半の人間は残っているものの朝礼のようなピリリとした空気は漂っていない。
皆今日知り合ったクラスメイトと話たり写真を撮ったりしている。

期待していた学校生活からまだ離れたくないのか、これからの生活を楽しく過ごすためにより多くの友達を作ろうという布石か…。いや、布石は些かひねくれた考え方だったか。

とにかく、入学式当日の放課後、僕のクラスは賑わっていた。
数名を除いて。
故意になのか偶然か、誰とも話そうとしない人間や話しかけられない人間も何人かいて、そういった人たちは授業が終わり次第帰るか自分の席で静かにしていた。

その数名の中には僕も入っていて、僕は1人で帰り支度をしているところだった。
もらったプリント等を入れて、鞄を閉じる。
僕はクラスメイトに話しかけられてもいないし話しかけてもいない。



こんなんでホントにいいのかと軽く自問しながら鞄を手にしたまま帰るため教室を出た。
答えは、でない。

今日は午前授業なのでまだ空は明るい。
そんな空を窓から見上げながら、長い廊下を階段に向かって歩く。

ここからでも見下ろせる校門周辺にはたくさんの桜が咲き誇っていた。

「………」

散りばめられた桃色の中に、目をひく金髪が見える。
私服も許可されている来神高校で、わざわざ制服を着ている金髪の少年。(僕も制服だけど。生徒の7割は制服を着用)

えっと…同じクラスの平和島静雄君だ。
彼も、1人で今日1日を過ごしていた。
特に何もしなかったけど、頭が鮮やかな金髪のため誰も近寄らなかったし平和島くんも誰かに近寄ろうとはしなかった。

因みに僕の前の席。





―――ドドドドドド…



窓から目を離し階段を下りていく途中、遠くから10台近くのバイクのエンジン音が聞こえた。もちろん外から聞こえているし、池袋の街中でエンジン音がしたって別に驚きはないのだけど、そのエンジン音に違和感を感じながら玄関へ向かった。
何故違和感を感じたのか、理由は分かっている。

バイクのエンジン音は通りすぎることなく、すぐ近くで止まったから。
靴を履き替えて玄関を出る。
窓から見た風景と同じものがそこには広がっていた。
ただ少し違うのは、

校門の前に立つ平和島くん。
それをバイクに乗ったまま囲む男達。
遠巻きに見て怯えている生徒や教員。

なんというか、平和な校門前は僕が玄関を出る数分で瞬く間に不良漫画のようになってしまっていた。不良漫画読んだことないけど。
エンジン音が止まったのは学校にバイクが入って来たかららしい。

そして明らかに平和島くんを標的にしているのでどうやら男達は彼に用があるようだ。
左手に金属バットを持ち、布やマスクで口許を隠した男達。

「お前が平和島だな?あんま調子に乗るなよコラァ」

挑発の言葉。
平和島くん本人は涼しい顔をしているけど、……

………邪魔だなぁ…。

僕は早く帰りたいのだけど。今日は洗濯もしなきゃいけないし掃除だってする予定なんだ。
あからさまに喧嘩しそうだけど、ここは学校だし平和島くんも手を出したりしないだろう。
いや、平和島くんがどんな人間なのかは知らないけど入学式当日に喧嘩なんかしたら退学間違いなしなんだから彼もうまくよけるでしょ。
最悪学校に逃げ込めばいいんだし。…教員たちも助けてくれる。多分。









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