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□第七章
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その時、ひゅん、と一陣の風が吹いたかと思うと、ルシオの顔が眼前にあった。
「きゃっ!?」
咄嗟にジャスティスを突き出すが、構えきれていない体勢では彼の太刀筋を受け止めきれられず、梨乃の体勢は崩された。
そこへ容赦無く、ルシオの双竜刀が襲いかかった。
「…っぃ、あぁぁぁぁあ!!」
肩口を貫いた、鋭利な刃。
壮絶な痛みに、悲鳴が迸る。じわり、と、白い衣服に不釣り合いな赤が広がる中、無情にもルシオは剣を引き抜いた。
「…っ…あ……う…」
耳障りな音をたてて、ジャスティスが手から滑り落ちる。力を無くした梨乃をルシオはいとも簡単に押し倒し、首筋に剣を押し当てた。
「…、…ル、シ…っ」
熱い程の激痛と、それとは真逆にひやりとした剣の感触が梨乃の意識を繋ぎ止めていた。
見下ろすルシオの瞳は、どこまでも冷たい。
「ルシオが…っなんだろうと関係無いから。あたし達は…これからもずっと一緒だから。だから…」
静かに、梨乃は瞼を下ろした。
お願い。
お願いだから──
「──目を、醒まして──」
「────!!」
瞬間、ルシオの内で何かが弾けた。
双竜刀が渇いた音を立てて彼の手の内から滑り落ち、ルシオは震えを抑えるように頭を抱えた。徐々に瞳に光が宿る。
「梨…乃?」
弱々しい声と共にルシオが困惑した表情で呟くのを確かに聞き、梨乃は小さく笑って意識を手放した。続くように、ルシオの体もぐらりと力を失い、糸が切れたように梨乃の上に倒れ込み、ぴくりとも動かなくなった。
「梨乃!ルシオ!」
全ての魔物を退治したエルウッド達が、慌てて駆け寄る。
「──梨乃!梨乃!」
「…プリシス、リカバーよ!早く!」
淡い光が傷口を塞いでいくのを見届けながら、エルウッドとアシュトンは二人の体を背負った。