黙示録 -Apocalypse-

□第十三章
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悲痛に叫んだ、その時だった。

「……アナスタシア」

初めて別の感情の宿ったその声色に、アナスタシアは涙に濡れる顔を上げた。
そっと、頬に彼の指が添えられるが、やはりその感覚は伝わってこない。

「……ごめんな──」

今までとは打って変わった、困ったような、泣き出しそうな、アレクセイの表情。
何か伝えようと薄く唇が開かれたが、その瞬間、陽炎は一層強くなり、アレクセイの姿は瞬く間に消え失せた。

無音の祖国の景観の中で、アナスタシアは、ただ独りになっていた。



◇◇◇



「──…様、お客様!」

乱暴な仕草で肩を揺すられ、アナスタシアはハッと目を醒ました。
すぐ眼前に広がる、不安げな御者の顔。

「…あ……」
「目的地に着きましたよ。大丈夫ですか?随分とうなされていましたが…」
「……え、ええ。大丈夫ですわ、すみません」

無理矢理笑顔を貼り付け、馬車から降り立つ。眼前に広がる、抜けるような青空の下にそびえ立つ白亜の宮殿を見ながら、アナスタシアは息を吸い込んだ。

つんと冷えた懐かしい祖国の空気が胸に染み渡り、思わず口元が綻ぶ。
もうじき春も終わりだと言うのに、ロシアは未だ肌寒い。いつもなら短い夏の到来を心待ちにしているのだが、今のアナスタシアにとって、この冷えた空気が祖国に帰ってきたという実感を沸かせた。





──アナスタシア──





(………)

甦った愛しい声に、アナスタシアはかぶりを振った。

(生きています…絶対に)

彼がなくなってから数年──幾度と無く呟いてきた言葉を、更に重ねる。

(遺体は、見付かっていませんもの。必ず…生きています)

そう思い込む事で、今日まで耐えてきた。そして──これからも永劫に。

(帰ってきますわ、必ず)

御者に料金を支払い、アナスタシアは宮殿に向かって足を踏み出した。日当たりの良い中庭に面した通路を抜け、最深部──ロシア皇帝のいる玉座の間へ向かう。

扉の両脇で構えていた門兵はアナスタシアの姿を見ると、さっと敬礼をし、アナスタシアは労うように微笑むと、華麗な装飾の施された観音開きの扉に手をかけた。
重い音と共に扉が開き、荘厳華麗な玉座の間が姿を現す。

「おお。アナスタシア・ケレンスカヤ」

朗々とした声が高い天井に吸い込まれるのを聞きながら、アナスタシアは赤絨毯の上で跪き、壇上にいる皇帝に頭を垂れた。
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