黙示録 -Apocalypse-
□第十二章
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(私だって…)
「民族浄化」が憎くないわけがない。あの騒乱は、ロシアにも多大な被害を与えたのだ。
(……)
考えを振り切るように、アナスタシアはカップに口付けた。甘い香りが口内に広がり、気持ちを落ち着かせていく。
「私も…──」
ややあって、そう語り出したアナスタシアに、メイファの視線が移される。
「優は優だと思いますわ。でも、シンはそう割り切れない。仕方無い話ですもの。だって、彼は異端審問官だし、何より神器発現者。女神を想う気持ちが強いのは当然──」
「シンは始祖じゃないのに?」
言って、メイファは真っ直ぐアナスタシアを見つめた。
「そもそもシンの方が怪しいアル。優の事気にする前に、自分の事気にするべきアル。だって明らかおかしいヨ、始祖じゃないのに何で神器持ってるアルか?シンの存在自体が一番怪しいアル」
「メイファ」
諌めるようなアナスタシアの声にも、メイファは動じない。
「アナスタシアだってそう感じてる筈アル。始祖は5人って、優も言ってたヨ。雷を司る始祖だってイザヤがもういるネ。なのに、なんでシンも雷を司る神器を持ってるアルか?一番訳分かんないのはシンアル」
「……」
一気に語ったメイファの言葉に、アナスタシアは何も返せなかった。彼女の言い分は、確かに正論なのだ。
無言のままアナスタシアはカップに口付け、ほんの小さく溜め息をついた。
◇◇◇
仄かに鼻腔を刺激する煙草の臭いに、シンは僅かに眉を寄せたが、ベッドにから起き上がる素振りは見せず、寧ろ逆に睡眠中を装った。
部屋に戻ってきた人物は恐らくこの狸寝入りに気付いていない筈──だがその考えも空しく、頭上から声が降ってきた。
「ほれ、シン。いつまでヘタな狸寝入り演じるつもりだ?」
「……」
渋々上体を起こすと、こちらを見下ろしているエドガーの瞳とぶつかった。
何となくバツが悪くなって、シンはあからさまに視線を逸らし、おおよそ今の状況に関係無いセリフを喉から搾り出した。
「…煙草臭い」
「そりゃ悪かった。もう染み付いてるもんでな」
相変わらずエドガーの態度は崩れない。飄々した物言いに、シンの眉間に益々皺が刻まれた。