黙示録 -Apocalypse-
□第十章
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酷い嘔吐感と戦いながら、優はその声が自身の内から響いている事に気付いた。
頭の中で声が木霊する度に、きりきりと締め付けるような痛みが頭を襲う。
──ねぇ。このままあなたはここにいて。あなたがあっちにいる限り、私はあっちに行けないから。
(…そんなの、あたしの知った事じゃない…!)
文字通り吐き捨て、優は眦を上げた。
「──…これは、あたしの身体だ!とっとと出てけよ!!」
その言葉を最後に、意識は急速に浮上していった。
◇◇◇
「──……う、──優!」
「…?」
ゆさゆさと乱暴に肩を揺さぶられ、優の意識は現実に引き戻された。
すぐ目の前にあるアナスタシアの顔に、焦点を合わせるように数回目を瞬かす。ぐるりと周囲を見回して、優はやっと状況が飲み込めた。
「もうっ、こんなところで寝ると風邪引きますわよ」
「……」
「…優?どうかしましたの?」
「…ん?あぁ、ごめんごめん」
開けっ放しの窓の外を走り過ぎていく景色を見、優は身を乗り出した。
今優達は、フランスに向かっている途中の汽車の中にいる。
さすがに二回目ともなると疲労感はそこまで感じず、優は夕闇に包まれ始めている広大な空を仰いだ。
「あたし、結構眠ってた?」
「超熟睡アル、熟睡」
二段になっている寝台の上部で寝そべったまま、メイファは顔を覗かせた。窓を閉め、優は先程座っていた椅子に戻り、あくびと共に大きく伸びをした。
(夢…。そりゃそうか)
そっと、己の胸に手を添える。まだ鼓動は不自然に早い。
(気分最悪…)
大きく伸びをしつつ、小さく舌を打つ。
「優、まだ眠いアルか?」
「…んー?んー、まあ、ちょっとね」
適当に返し、紅茶を飲んでいるアナスタシアの手元の地図を覗き込んだ。
「今どの辺り?」
「先程ポーランド国内に入りましたわ」
「じゃ、フランスまでもうちょっとだね。──ちょっとトイレ」
言って立ち上がり、優は外に出た。