黙示録 -Apocalypse-

□第九章
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「シン、傷大丈夫?」

今度は、優の番。シンの顔を覗き込んで尋ねたが、彼は、ああ、と短い返事を返し、それきり何も言おうとしなかった。

優の眉間に、皺が寄る。
貫通する程の傷がそんなにすぐに塞がる筈がない。案の定、鎮痛と止血を兼ねてか、シンは脇の付け根を押さえたままだ。

「…傷酷いんでしょ?治すから、腕出して」
「いいよ、別に」
「あのさぁ…エドガーといいあんたといい、どうしてそうやって自分で何とかしようって思うわけ?」
「別に何とかしようと思ってるわけじゃねぇよ。必要ないからそう言ってんだ」
「必要ないわけないでしょ?あんた腕貫通されてんのよ!──ほら、いいからとっとと出す!」

問答無用のまま、シンの腕に掴みかかる。

「ちょ…おま…、おいっ!」
「うわっ、ひどっ…」

現れた惨状に、優は眉を寄せた。
傷口自体は小さなものであるが、貫通された事による出血量が尋常ではない。シンの腕を伝って、鮮血が優の制服に垂れてきた。

「でも腕が動かせるって事は、神経系は損傷を受けてないようですわね」

後ろから覗き込んできたアナスタシアの声を聞きながら、優は救急箱を開け、消毒液やらガーゼやらを取り出した。

「ほら、治すよ」
「…い、いいっつってんだろ!」
「うるさい!」
「…っいいから、今すぐ放せよ!」
「ちょ…馬鹿、暴れんな!あっ──!」
「い──ってぇぇえ!!」

消毒液がちょうど患部にぶちまけられ、シンは悲鳴を上げた。

「…ふざけんな!なにすんだよ、お前!」
「はあ!?あんたが大人しくしないからでしょ!?」
「まあ…」

不毛な言い争いを続ける二人の後ろで、アナスタシアはある考えに行き付き、小さく声を上げた。

「もしかしてシン、自分で回復魔法を使うつもりですの?やめておいた方がいいと思いますわ。あれは他の魔法より人体に加わる負担が大きいんでしょう?」
「そうなん?」

感慨深げな優に、アナスタシアは頷いた。

「人体の自然治癒力を増進させる魔法ですもの。という事は、人体の成長を無理矢理早める──つまり、肉体にすぐガタが来てしまうんですわ」
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