黙示録 -Apocalypse-

□第三章
3ページ/20ページ

「あれが薔薇十字団だ」
「教会挟んで隣り合わせなんだ」
「相互に援助し合ってるって言ったろ。サン・ジェルマン音楽院と薔薇十字団は」

馬車はサン・ジェルマン音楽院の門の前で停車し、優達は順に下車した。シンは運賃を御者に手渡し、優は馬車が立ち去っていくのを見送る事もせず、青銅で造られた巨大な門を仰ぎ見た。

「在学許可証ちゃんと持ってきてんだろな」
「モチ」

頷き、シンは仮面を装着し、優とメイファを先導して歩いていった。敷地内にいる学生達は初めこそ優やメイファ──アジアンを見ると奇異な目線を投げ掛けたが、彼女達の前を歩くシンを見ると、慌てて頭を下げていた。

そんな前を行くシンの外套を引っ張り、優はこそっと耳打ちをした。

「…ねぇシン。異端審問官って、むっちゃ尊敬されてない?」
「異端審問官っつーか、薔薇十字団がだよ。俺達西洋人は、神を崇め敬っている。その中でも薔薇十字団は人民の意識を高めるために、率先して信仰を高めているんだ。神の恩恵により、魔法を習得した俺達薔薇十字団は最も神に近い存在だ」
「神に最も近いって、それ傲慢すぎない?」
「それが信条なんだよ」

そう言い放った声は微塵も迷いがない。続くように口を挟んだのは、メイファだった。

「高めるって、神様に対しての信仰アルか?」
「ああ」
「シンは神様見た事あるの?」
「ない」

返ってきた即答に、優は大袈裟に目を剥く。

「えー、見た事もないのに崇んの?空しくなんない?」
「どうして空しくなるんだ?旧世紀の核戦争で荒廃した世界が再建出来たのは、神の恩恵の賜物だ」
「違うでしょ。人の強さと技術力よ」

きっぱりと告げた優に、シンは仮面の奥の瞳を不快気に眇めさせた。

「──…お前、こっちに来たんならあまりそういう事言わない方が身のためだぜ」

冷徹な声色に、優は声を詰まらせ、後は大人しく黙ったまま前を行くシンの背中を見つめた。

それ程長くはない石畳の道を歩き、シンは観音開きの扉を開いて、施設内へと入った。シンの姿を見た途端、受付にいる中年の女性は恭しく頭を下げる。
優は受付に向かった。

「あの、今回短期留学で来ました、加護優なんですが…」
「はい、在学許可証を提示して下さい」

鞄の中から取り出した書類を手渡す。女性は赤渕の眼鏡の向こうからそれにざっと目を通すと、すぐに書類を返却した。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ