黙示録 -Apocalypse-

□第三章
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だが、アジア諸国──主にチャイナでは、異端審問官に対する憎悪は未だ根強く残っている。現に、シンはチャイナの国境を出るまで黒衣の外套と仮面を身に付ける事はなかった。

そのチャイナ出身であるメイファがシンと共に西欧に行く事は、果たして大丈夫なのだろうかと思ったが、メイファは普通にシンに話し掛けていたし、シンもシンで対応を変える事はなかったので杞憂に終わった。

「アイヤーこれがフランスアルか!芸術的な街ネ」

外に出るなり、メイファは感嘆を込めてパリの街並みを仰ぐ。

「うちチャイナから外出たの初めてヨ」
「あたしも。外国ってなんか緊張すんよね。文化とか違うし、ジャパンでは当たり前な事がこっちでは非常識だったりとかするし」
「そんな事より優。期限は今日の16時だろ?急ごうぜ」
「あっ、そうだそうだ」

シンに先導され、優は別の馬車に乗り込む。御者にシンは「王立サン・ジェルマン音楽院まで急いで下さい」と告げ、優達を乗せた馬車はシャンゼリゼ大通りを駆け抜けていく。

「優、留学してきたアルか。凄いヨ、優って俗に言う天才ってやつネ!」
「ンなわけないし。たまたまだって」
「だって優ジャパニーズヨ。こんな西欧まで留学出来るなんて、余程の事ネ」
「あははっ。まっさか」

馬車から上半身を完全に乗り出したままのメイファの言葉に、優は苦笑する。

「けどあたし、サン・ジェルマン音楽院ってどんなんか見た事ないんだよねぇ」
「そんなんで、どうやって音楽院まで行くつもりだったんだよ」
「勘」
「……」

ため息をつき、身を乗り出したままのメイファの服を引っ張り、危ないぞ、と言ってシンは無理矢理彼女を座席へと戻す。メイファは素直に従い、大人しく座席に座ったまま窓の外を駆け抜けていくパリの街並みに、目を輝かせている。

「見えてきたな。あれがサン・ジェルマン音楽院だ」

シンの声に、優は身を乗り出す。
パリ市内の中心部に、その建物はあった。

宮殿を彷彿とさせる荘厳な造りをした建物は、太陽の光を受けて白で統一された壁は眩しいばかりに輝いていた。市内にあるというのに敷地面積は広く、四方を青銅の格子で囲まれ、巨大な門から伸びた石畳はきれいに舗装され、そして敷地の片隅にはこれまた大理石で造られた噴水があった。

「キレイアル!」

メイファの感嘆の声を聞きながら、教会を挟んでそびえたつ幾つもの尖塔を持った荘厳な建造物に、優の注意は引き付けられた。

「あれは?」
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