黙示録 -Apocalypse-
□第二章
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「いかが致しましょうか」
「追え」
たったそれだけだが、十分な答えだ。
「異端審問官をなめ、女神を冒涜するとどんな目に会うか思い知らせてやれ」
「御心のままに」
風音と共に声を散らし、シンを残して異端審問官達はパリの街並みへと消えていった。彼らが走り去ったのを見送り、シンは踵を返すと、何を思ったか優が逃げた方向とは別の方角に向かって歩き出した。
──何故か不安定に騒ぐ、己の内にある力を鎮めながら。
◇◇◇
優は、ただ走っていた。
大通りを駆け抜け、入り組んだ路地を駆け巡る。背後から追ってくる異端審問官の気配をひしひしと感じながら。
地の利は向こうにある分、明らかに優が逃げ切るのは無理である。
(…ホテルにまで辿り着ければいいんだ)
休憩がてら壁に背を預け、荒い息を吐きながら自分に言い聞かせる。
そこでビザを見せたところで彼らが納得するとは思えないが、今よりはいい状況になると信じたい。
逃げてしまった手前、もうそれしか方法はないのだ。鬼ごっこはもううんざりである。
その時、鼻先を閃光が駆け抜けて優は息を呑んだ。
「…足、速すぎ!」
疲労を訴えている体を叱咤し、踵を返して路地から大通りに踊り出る。一瞬遅れて、先程まで優のいた地点に落雷が落ちたかと思うと、その奥から異端審問官が現れた。
肌で感じる魔法の威力に、優は畏怖した。足が竦み、最初目の辺りにした時は地面にへたり込んだが、逃げなければいけないという意思が優をただ突き動かした。
その判断が正しいかどうかなど分かる術もないが、今の優はただ逃げるだけだ。
そして、この鬼ごっこを続けているうちに優は理解した。彼ら──異端審問官は人通りの多い場所では、決して魔法を使用しないという事を。
優にはよく分からないが、ただ彼らが市民の安全に気を配っているという事だけは理解出来た。そしてそれが、彼らが市民から敬愛されている理由だという事も。
(…けど、あたしから見ればいい迷惑!)
再び路地に逃げ込む。背後に異端審問官の気配はないが、優は用心深く周囲に目を配った。
周囲の景観からして、恐らく宿泊先のホテルは目と鼻の先だ。
優はホッと胸をなで下ろし、早まった鼓動を静めるために歩いて目的地にまで行こうと思いたった。
その時だった。