黙示録 -Apocalypse-
□第二章
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「…ジャパニーズですけど」
「滞在許可証を提示しろ」
どうやら疑われているらしい。優は渋々鞄を開け、許可証を探し──固まった。
(……あれっ?)
入っていない。記憶を探り、優は青ざめた。
(…やばい。ホテルに預けたバッグの中だ)
一気に冷や汗が噴出する。表情を感じさせない異端審問官達を、優は恐る恐る見た。
「…すみません。ホテルのバッグの中みたいです…」
「………」
異端審問官は暫し押し黙り、やがて優に話し掛けた人物が傍らの人物に何か指示を出した。頷くや否や、その人物は剣を鞘走らせ、優はぎょっとした。
「この国の法律だ。アジアンの場合、滞在許可証を持ち歩かない者は、強制的に連行し、反省具合により刑罰を決定する」
「はあっ!?」
あんまりな法律に、思わず声を上げる。
「何よ、それっ!そんな無茶苦茶な法律、聞いた事ない!」
「法律は法律だ」
「あたしだってわざとじゃないし!酷くない、強制連行とか!つーかその前に武器しまえよ、武器!」
「…反省の色無し」
その言葉を皮切りに、傍らの異端審問官は問答無用で優に斬り掛かってきた。間一髪のところでそれを回避するが、それは反射的なものであった。もう一度避ける自信は優にはない。
周囲にいた人々は、関わり合いにならぬよう遠巻きで事の成り行きを見守り、誰一人として優を助けようとはしなかった。
だが、今の優にはそんな彼らを恨む余裕もない。
「話聞いてよ!あたし、ちゃんと滞在許可取ったもん!ホテルに行ったら、ビザでも何でも見せるから!」
「郷に入っては郷に従え。何度も言わせるな」
他の異端審問官が近付く度に、優も同じ歩数だけ後退った。
「あーもう!あたし二度とこんな国来ないからなぁ!」
叫び、優は砂をひん掴むや否や、異端審問官目掛けて撒き散らした。
彼らが狼狽したその一瞬の隙を見逃さず、優は踵を返すと一目散にホテルの方角へと駆けていった。
「…司祭シン、お怪我は──」
「ない」
彼らを取り巻くように発生した人為的な風の中心で、シンと呼ばれたリーダー格の若者は、優が走り去っていった方角を仮面の奥から見据えた。