黙示録 -Apocalypse-

□第八章
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「またあなたですのね!一体何の用ですの!?」
「きゃははっ!そんなの決まってるじゃん!」

槍を展開させて吼えたアナスタシアにも、ルカは動じない。

「女神様を連れに来たんだよ!だって女神様、あたしに言ったもんね。女神様は常にあたし達始祖と共に在るって。──ね?女神様」
「……、」
「あっれー?もしかして嘘ついたのー?…言ったよねぇ、あたし容赦しないって」

ルカを取り巻く魔力の濃度が増大する。周囲に発生した闇色の旋風が、彼女の足元の大地を切り刻んでいく。

「おいおい、お嬢ちゃんちょっとは落ち着けよ」

そんな中でも至って平静なまま、エドガーは紫煙を吐き出した。

「この港は合衆国の管理下だ。合衆国の法律じゃあ公的期間の損害は、理由如何なく罰せられるんだぜ?」
「はあ?この国の法律とか関係無いし」
「郷に入っては郷に従え。常識だぜ?」
「…ちょっとおっさん。ちょっとマジでうるさいんだけど」
「当たり前だ。おっさんってのは、口煩いって相場が決まってんだ」

おっさん、と言う単語にも一切平静を崩さないエドガーの態度に、ルカの苛々が増していっているのは手に取るように分かった。

呑気に紫煙を吐き出したエドガーに、とうとうルカの苛々は爆発した。

「あー畜生!マジで黙れよ、おっさん!あたしはねぇ、大人の男ってのが大っ嫌い──っ、うあぁ…っ!」

苦悶の声を上げて体を折ったルカに、優達は反射的に身構えた。

優達の目の前でルカはそのまま膝から崩れ落ち、荒い息を吐きながら額を押さえた。
指の隙間から見える大きな紫色の瞳は苦悶に揺れ、それがゆっくりとエドガーを捉える。

突然の事態に、さしものエドガーも目を白黒させている。そんな彼を睨み上げながら、ルカは喉から声を絞り出した。

「───あんた……、誰よ…──」
「…エドガー・ロックウェルだ」

律儀に答えるのもどうかと思ったが、優は警戒を解かずにルカの動向を探った。
ルカは奥歯を噛み締めて、ゆっくりと立ち上がった。額に滲んだ脂汗を無造作に拭い、幼い顔の中に嘲笑的な笑みが浮かぶ。

「…エドガー・ロックウェル?はっ…知らない、知らない知らない、あたしは知らない…」

壊れた人形のように、ルカはただ、知らない、と小さな声で繰り返す。

「あんたみたいなおっさん、あたしは知らない…」
「いやいやいや。生憎だけど、俺もお嬢ちゃんみたいな子知らないぜ?」
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