黙示録 -Apocalypse-
□第八章
2ページ/15ページ
やがて、優達を乗せた車はそのまま港に到着した。朝靄の立ち込める大きな港は、まだ船員が疎らにいるだけで、優達が乗る予定の旅客船も船員達によって最終確認が行われているようだ。
「まだちょっと余裕がありそうだな」
「エドガー時間まだ大丈夫?」
「大丈夫だよ。リネットにもちゃんと最後まで見送ってこいって言われてるからな」
「エドガー二言目にはリネットアル。奥さんの事、凄い愛してるヨ」
「ここだけの話、実は俺、愛妻家って結構評判なんだぜ?」
「実は、とかじゃないと思うけど」
「誰が見ても明らかじゃねぇか」
優とシンの突っ込みを華麗に流し、エドガーは煙草に火をつけた。吐かれた紫煙が、暫く大気中に残留して消えていく。
「お宅ら、これからどーすんだ?」
「特に決めてないよ。ユーラシアに戻ってから決めるの」
「エドガーも一緒に来るアルかー?」
目を輝かせて尋ねてきたメイファに、だが、エドガーは肩を竦めた。
「行ってもどうにもなんねぇよ。俺、部外者だし」
「ちぇっ。残念ネ」
頬を膨らませたメイファの前で、エドガーは太陽の光で金色に輝く空を見上げ、また紫煙をくゆらせた。そんな彼の眉が、訝しげに顰められる。
「?何だ、ありゃ」
青空を仰いだまま、不可解気なエドガーの声に優も顔を上げた。
朝焼けの眩しい空。その光以外、優の目には何も見えない。
「?なんかあんの?エドガー」
「あれだよ、あれ」
エドガーが指をさすが、相変わらず優には眩い金色しか飛び込んでこない。
シン達も二人に倣って空を見上げ、そして次の瞬間、アナスタシアはハッと息を呑んだ。
「!あれ──!」
「…っ始祖だ!!」
え、と思った瞬間、槍の形状を成した闇が轟音と共に優達の周囲に落ちてきて、悲鳴が上がった。
砕けた大地から顔を庇い、優は粉塵の向こうにすたりと降り立ったシルエットを見た。
「ルカ───!!」
影は、まさしくそれだった。
高めに結われたツインテールを揺らし、ルカはその幼い顔の中に何とも言えない歪んだ笑みを浮かべていた。
「こんにちわぁー女神様―」
独特の間延びした甘ったるい声と共に、まるで旧友に再会したかのようにルカは嬉しげに腕を広げる。瞬時に神器を発現させた優を目の当たりにしても、ルカの瞳は動揺を映さず、寧ろその様を楽しんでいるようだった。