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□第六章
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耳に心地よい清流の音がして、ルシオはまどろみから覚醒した。

「…っ」

酷く痛む頭を押さえ、辺りを見回す。調度品からして、どうやらスカイテッドの大神殿の内部のようだった。

「……」

ゆっくりと上体を起こす。まだ完全に覚醒しきれていないからか、視界が酷く揺らいだ。

柱からは女性を象った彫像が手にした壺から水を流している。天井はガラス張りで、壁にはステンドグラスが飾られてある。

「…」

唐突に言いようのない罪悪感に襲われ、ルシオはぎゅっと唇を噛んだ。レイチェルの誘いに応じて今自分がここにいる事が、梨乃達に対する裏切りのように感じられた。


(仕方、ないんだ…)


どうせ自分の気持ちは、誰にも分からない。

与えられた永久の生によって見せられる全てが、贖罪そのもの。それが、自分で選んだ道であったとしても、もう限界だった。

(レイチェルは…)

無理矢理思考を切り替え、ルシオは周囲に目を配った。奥に更なる通路が続いていて、迷う事なく歩き出したルシオの眼前に、それは姿を現した。

「…ジェム?」

そこにあったのは、自分の背丈をゆうに越える長細いジェムだった。面が鏡のように周囲の調度品を映し出していて、次の瞬間、そこに映し出された自分の表情にルシオは絶句した。

「な、んだよ、これ…っ」

助けを求めているような、悲しげで苦しげな張り詰めた表情。
真っ直ぐ、ジェムの表面に映り込んだ自分は、視線を逸らす事なく見つめ返してくる。

「見るな……」

ぎり、と表情を強張らせた筈なのに、映り込んでいる自分の表情に変化は無い。相変わらず、物悲しげな瞳の色は変わらない。


「見るな…こっちを、見るな…!」







──もう、限界なんだよね──







頭の中で、不気味に声が反響する。


「黙れよ…っ」







──解放されようよ。繋ぎ止められた永遠なんて、もう嫌だよね。きっと、あの御方なら出来るよ。だって、神様だもの──







「黙れ……」







──辛いんでしょ?もう、見たくないんでしょ?犠牲も罪過も何もかも。ねぇ、祈って。願って。乞いて。そしたら、全てあの御方が…──






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