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□第十五章
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ヘルメスのいた雪山からそう遠くない天然の鍾乳洞。その最深部と思しき場所に、梨乃達は佇んでいた。

今までの狭い通路とは違う、広々とした空間。そこにある石舞台に梨乃が恐る恐る足を踏み入れた途端、眩い光が辺りに溢ち、石舞台の中央に巨大な光球が出現した。

「!」

各々の武器を構えた梨乃達の前で、光球はやがて人の形を形成させていった。

亜麻色の襟足まで伸ばされた髪は光を受けて輝き、その肢体は肌を一切曝け出さないローブ形の服に身を包んでいる。強い光を背に受けながら、光精霊──アルテミスは厳かに瞳を開いた。

長い睫毛で縁取られた聡明な瞳が、梨乃達を捉える。
身構えた梨乃達を前にして、アルテミスは思い掛けない言葉を口にした。

『シルスを出せ』
「…はィ?」

間の抜けた声を上げた梨乃を前に、アルテミスの表情は変わらなかった。

「シルスって…あのシルス?」

聞き返した梨乃に、アルテミスは頷いた。

『今すぐそいつを召喚しろ』
「…ファーンもついてくるよ?」
『一向に構わぬ。とにかく早くしろ』

急かすアルテミスに、梨乃は言われるがままシルスファーンを召喚した。

一陣の風と現れる、シルスとファーン。
だが、いつもと様子が違う。いつもなら尊大な様子で相手を見下ろしているシルスだったが、今は情けなく妹の背中に隠れてしまっている。

『な…、何だよ…』

そんな状態でも、精一杯垣間見せる尊大さ。そんな彼を一瞥し、アルテミスは視線をファーンへと移した。

彼女の言わんとする事の理解したファーンは、自身の背後に隠れている兄に、申し訳無さげな笑顔を見せた。

『ごめんね。お兄ちゃん』

隙を見計らい、ファーンはするりと横へ退く。必然的にアルテミスと対峙する形となり、シルスは焦ったように声を荒げた。

『シルス』

そんな彼に構う事なく、アルテミスはシルスに近寄ると、その独特的な形の耳を容赦無く引っ張った。

『い…ってぇ!ちょ…っいてぇ、いてぇっつーの!!』

逃れようとシルスは遮二無二暴れるが、効果は見られない。
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