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□第九章
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「──これより、異端審問を始める!!」

立派な身なりの低い男性の声が、ドーム形の天井に響いた。

ここは、スカイテッド市内から遠く離れた山の中にある小さな神殿だった。
神殿、と言っても、内装はさながら裁判所のような造りになっていた。円形の建物の中には、ぐるりと囲むようにして傍聴席がある。
少しだけ前に突出しているバルコニーのような場所には、先程の裁判官らしき男が座っており、その一歩下がった後ろでは神の使徒全員が梨乃達を見下ろしていた。

後ろ手に拘束された梨乃達は今、傍聴席から伸びた長い道を歩いた所にあるバルコニーのような場所に立たされていた。そこはちょうどドームの中央付近になり、傍聴席にいる神官や神団騎兵の視線が遠慮無く降り注がれた。足元にはそれこそ床はあるが、その下にはどこまでも続く深淵の淵を思わせる程の闇が広がっている。

「レイチェル様の崇高な理念の邪魔をしようとした事を認めるか?」
「認めまーす」

間髪入れずに即答。
その潔いと言ってもいい程の答え方に、直ぐ様傍聴席から不満げな声が爆発的に上がったが、裁判官の制止を促す木槌の音にすぐに静まり返った。

「だって、おかしいでしょ?みんなに何もかもが平等な世界だなんて…」
「何故そんな事が言えるのだ。お前にそんな事を言う権利はない」
「あんたらもそんな事をしていいなんていう権利はないっつーの」

腕を組み、梨乃は挑むように仰ぎ見た。

「例えばの話、金持ちにお金あげて喜ぶと思う?満腹の人にご飯あげて喜ぶと思う?満たされている人にこれ以上物をあげてどうするの?困っている人にこそ、救いの手を差し延べてやるのが神様ってもんじゃない?なのに、レイチェルは満たされてる人にだけ更に幸福を分け与える、満足されていない人には何もしない。世界中には、沢山貧しい人達がいるのにお前らは殆どと言っていい程何もしていない。はっきり言ってお前らの意味無し。一体何がしたいんだっつーの」

瞬間、傍聴席にいる神官達から一斉に罵声が飛んだ。怒号が渦巻く中、梨乃達はただ裁判官を睨みつける。

裁判官は木槌を再び叩く。徐々に怒声は収まっていき、場内は水を打ったように静まり返った。

「静粛に。お前達の判決は後日言い渡す。それまでは牢で頭を冷やすがよい」

その声に促され、背後から近付いてきていた神団騎兵は、梨乃達を小突いて乱暴に退廷させようとした。

「おい!話はまだすんでねぇぞ!!」

声を荒げたエルウッドに目もくれず、裁判官はさっさと退廷していく。エルウッドはあからさまに舌打ちをして、素直に神団騎兵に連行されていった。



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