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□第八章
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もう、これで何度目になるのだろうか。
『──梨乃!リゼルグ!』
叫ぶジャスティスの声が、夜の闇の中に溶けていく。
それでも互いの手を取って倒れ伏している適合者達は目覚める気配は無い。ただでさえジャスティスにとってここは見た事もない世界で、それだけでもう思考は混乱に陥る寸前だと言うのに。
『梨乃!リゼルグ!』
「──……うっ…」
いよいよ切羽詰ってきたジャスティスの声は、ようやく届いた。
「……っ頭、痛い…」
最初に覚醒を果たしたのは、梨乃だった。がんがんする頭を押さえ、ゆるゆると腫れぼったい瞼を開く。星空を瞳に宿したその瞬間、梨乃の瞳は大きく見開かれ、弾かれたように上体を起こそうとしたが──叶わなかった。
「お、重ーっ!!」
体全体に凄まじい重みがかかっているようだった。ぐぐ、と地面から無理矢理体を引き離し、ようやく上体を起こす事の出来た梨乃は肩で大きく息をついていた。
「な、何でこんな体重いの…!?」
『…多分だけど、ミッドガルドとは重力値が違うんだと思う』
「ミッドガルド…?」
その言葉に梨乃はハッとしたように辺りを見回し、自分の置かれている現状を悟って青ざめた。
「…嘘、…──」
そこは、紛う事なく自分のもといた世界──しかも実家の近所だったのだ。
「…うっ……」
その時、言葉を失った梨乃の横で、ルシオが小さく唸り、ジャスティスは叫んだ。
『リゼルグ!!』
「えっ」
何故か、梨乃が声を上げる。うつ伏せで倒れていたルシオは額を押さえ体を起こそうとして、だがやはり、梨乃と同様そう簡単にはいかなかった。忌々しげに、舌を打つ。
「…何なんだ、この重力は…」
それでも、梨乃に比べてすんなりと立ち上がったところは、流石と言うべきか。
「……何でルシオがいんの」
「いたら悪いのか」
「いや、別に…」
もごもごと口ごもり、梨乃は俯いた。光に呑み込まれて意識が無くなる直前、誰かに手を取られた感覚はルシオのものだったのだ。