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□第三章
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階下から聞こえてくる微かな話し声に、梨乃は深い眠りからゆっくりと目覚めた。
未だ覚醒しきれていない頭で、小さく呻りながら傍らの置き時計をのそのそと見やる。ぼやけた視界の中、針はちょうど10時を回った所だった。
「うっそぉぉお!?」
文字通り飛び起き、急いで昨日手に入れた服に着替える。寝癖だらけの髪をブラシでさっととき、ジャスティスを手に取って慌てて部屋を飛び出した。居候の分際で寝坊など甚だしい。
『梨乃さ、もう少し早く起きた方がいいね』
「うっさいなぁ!あたしは朝に弱いの!」
手元のジャスティスに悪態をつきつつ、階下へ駆け下りる。
階下にはロベリアとエルウッドがいた。エルウッドは今から出掛けるのか、いそいそと旅支度を調えている。
梨乃に気付いたロベリアは、にっこりと笑った。
「おはよう、梨乃ちゃん。よく眠れた?」
「す…すみません。寝坊して…」
頭を下げた梨乃にロベリアは、いいのよ、と笑う。
「何かあるんですか?」
「町のしきたりなんだ」
答えたのはエルウッドだ。
「カレスで17を迎えた男は、親元を離れて一人前の狩人になるべく外に出るんだ。俺も今日からってわけ」
「へぇ…」
まだよく動かない頭で、昨日エルウッドがそれらしい事を言っていたのを思い出す。ぼんやりとしていた梨乃だったが、慌てて口を開いた。
「あ、あの…あたしも一緒に行ってもいい!?」
突然の申し立てに、ロベリアとエルウッドは目を瞬かせた。梨乃は躊躇する事なく続ける。
「お願い。あたし、会いたい人がいるの」
脳裏に浮かぶのは、どうしてだかルシオの姿。
何となく、彼の事が気になる。理由は、ただそれだけ。
──大丈夫だと言ってるだろう!──
(あ…)
甦る別れ際のやり取りに、怒りに眉が寄る。
「いいぜ、別に」
その時、あまりにあっさりと承諾したエルウッドに、思考を中断された梨乃は展開についていけず唖然とした。
「え、そんなあっさり…いいの?」
「言い出したのお前じゃん」