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□第二章
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「──良いか!迅速に行動しろ!万が一怪しい奴がいたら、すぐに知らせるのだ!」




立派な身なりをした男の鞭打つような声に、何人もの男達は、はっ、と歯切れよい返事を返した。

人里外れた森の中で、真っ白な服に身を包んだ男達が一様に周辺に散乱している七色の物質を掻き集めている光景は、異質である。

「だけど、こんなにいっぱい何に使うんだ?」
「お前は入団してまだ日が浅いんだよな」

袋を抱えてぼやく若者に、男性は快活に笑う。

「なんでもレイチェル様が必要とされてるんだとさ」
「…レイチェル様?レイチェル様って、あのレイチェル様か?俺まだお目にかかった事ないんだ」
「俺は見たぜ。奇跡の力もな。ありゃ凄ぇよ。信者が増えるのも分かるわ」

荷物を抱え、男達は手際よく運ぶ。

「………」

そんな彼らの動向を遺跡の柱の上から見つめる、一人の若者の影があった。

まだ若々しい外見に比べ、若者を取り巻く雰囲気は随分と老成している。細く、それでも引き締まった体は青を基調とした服装に包まれ、黒い髪の下で光る群青色の瞳は冷ややかな色を映していた。

「…………」

若者は何もせず、身を低くして只じっと彼らを見下ろしていた。──頭上から徐々に落下してくる影に気付くことなく。





ドスン。





「!!?」

いきなり背中にかかった物凄い圧力。

抗いきれず体勢を崩す。だが、そんな状況下でも若者は必死に上体を起こし、背中の重荷を下ろそうとした。

「え、ちょ…、きゃあっ!!」

若者が急に立ち上がった事により、梨乃は転落する一歩手前。咄嗟に若者は腕を伸ばし、梨乃の腕を取った。

安定した大地の感覚に、思わず漏れる安堵の息。

「ご、ごめん…ありがと──」

礼を述べようと顔を上げた梨乃の視線が、まじまじと自分の見下ろしている若者の視線と交わる。
その不思議そうと言うか、物珍しそうな視線に、梨乃は不快げに眉を寄せた。

「…なに」
「………、お前──」
「──誰だ!そこにいるのは!!」

瞬間、下から男の鞭打つような声が轟き、若者は柱の麓を見下ろした。
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