黙示録 -Apocalypse-

□第十五章
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頭の中に響く声に、誘われるように瞼を開ける。


先程までの暗闇とは違い、一気に鮮やかに彩られる世界。
青空。白亜の城。針葉樹林。祖国ロシアの景観。





───また、この夢か。





もうこれで何度目になるだろうか。
つんと冷たい空気が肺に染み渡るのを感じながら、アナスタシアはゆっくりと深呼吸した。早く脈打つ鼓動を抑え込むようにぎゅっと胸を押さえ、ゆっくりと眦を上げる。眼前で翻る、濃緑色の軍服。

祖国の景観の中に、変わらずいる“彼”。

(…?)

ただ、いつもと異なる様子にアナスタシアは眉を顰めた。

名前を、呼ばないのだ。唇は堅く一文字に結ばれ、見た事もない程冷めた双眸に、アナスタシアの内を畏怖にも似た感情が駆け抜けた。

「アレクセイ……?」

恐る恐る、名を呼ぶ。
眉一つ動かない彼の顔。冷酷な眼差しが、アナスタシアを射抜く。

その瞬間、アナスタシアは理解した。記憶の中で、彼はこんな顔をしない。目の前にいるのは“彼”では無い。

「…ア、レクセイ……?」

脳を揺さぶる鼓動を感じながら、確かめるようにもう一度呟く。どこまでも冷めた双眸は、一切感情を宿そうとしない。
萎縮する喉に、無理矢理空気を通す。

「──…あなた……誰…?」

張り詰めたその声だけが、無音の空間に木霊する。その時、応えるように、ざわりと、彼の短髪がざわめき、次の瞬間、凄まじい光が襲いかかってきて、反射的にアナスタシアは目を覆った。

やがて収まった爆発的な光に、恐る恐るアナスタシアは目を開き──愕然とした。彼の手に握られている、大振りな諸刃剣。

(いつの間に…──!)

そんなものが収納出来る筈が無いのに、そう思った瞬間、先程の光を思い出し、アナスタシアはハッとした。

(まさか……)

冷たい汗が頬を伝う。
何度か体感した事のある、一連の流れ。それは、始祖が神器を発現させる時に酷似しているのだ。

始祖。その言葉の持つ意味に、アナスタシアは戦慄した。

「…違う──違いますわ!ねぇアレクセイ…!」

一縷の望みを込め、アナスタシアは叫ぶ。“彼”は、肯定も否定もしない。眉一つ動く事のないその表情の中で、灰色の双眸は何処までも冷たい輝きを帯びている。
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