黙示録 -Apocalypse-

□第十四章
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懐かしい感触と、カーテンの隙間から零れる朝日に優の意識は覚醒を余儀なくされた。

「……う…ん…」

無意識下で掛け布団を深く被り直し、お気に入りの枕に顔を埋める事で射し込む日光を遮断する。だが、何を思ったか、そろりと優は布団の隙間から顔を覗かせ、ベッドサイドに置かれてある目覚まし時計をぼんやりと見た。

そこで、昨夜セットした時間より、一時間早く目覚めている事に気付く。寝乱れた髪はそのまま、優は緩慢な動作でアラームの電源を落とした。

「………」

まだ覚醒しきれていない体を起こし、床に無造作に投げられたスクールバッグの横を素通りして階下に降りる。人の気配の無い一階には、やはり誰もいない。いつもの事だ。

優が目覚めた時点で、母が家の中にいたためしがない。大手企業に勤めている母の朝は早く、共に食事を向かえた回数も数える程しか無かった。

トーストを焼きつつ、身支度を整える。無音の空間が寂しく、優はテレビをつけると、わざとその音量を大きくした。

「…───」

ブラウン管の向こうに映し出された見覚えのある風景に、思わず動きが止まる。
薔薇十字団崩壊跡地。
未だに瓦礫がうずたかく積まれたそこで作業をする人達や祈りを捧げる人々の様子を、ナレーションが重苦しい口調で語っている。

電源を落とし、鞄を掴むと優は逃げるように家から飛び出した。



◇◇◇



(あたしには、もう何の関係も無い)

呪詛のように、何度もその言葉を反芻する。

自転車に乗った学生。
慌ただしく駆けていく会社員。
自動車の行き交う大通り。

ビル。コンビニ。学校。信号。バス停。通学。日常。
戻ってきた、“いつも”。

(これが、あたしのいるべき“世界”なんだ)

学校に行って、放課後遊んで、母親が帰ってくる前に帰宅して、ピアノをして。
これから繰り返していく、日常。

(お母さんは嫌だけど…)

帰宅したのが深夜だったので母は何も訊いてこなかったが、恐らく今日は音楽院での成果の事を訊かれる筈だ。

そんなものある筈ない。
かと言って、向こうで起こった真実をありのまま伝えたとしても、あの母親が信じるわけが無かった。

(…叩かれるんだ、絶対…)

あのヒステリックな声で喚き散らし、気の済むまで殴られるのだ。
幼い頃に植え付けられた恐怖は根強い。

(嫌…絶対嫌だ…)

ぎゅっと、優は鞄を握る手に力を込めた。その時だった。

「…優?」

背後から聞こえた声に振り返った優は、みるみるその顔を喜色に輝かせた。

「葵!」

そこにいたのは、優と同じ制服に身を包んだショートカットの少女だった。懐かしさをこらえきれず、優は駆け寄った。
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