黙示録 -Apocalypse-
□第十二章
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「……」
アナスタシアは、小さく息をはいた。自分だけしかいない静か過ぎる室内に、溜め息が溶けるように消えていく。
夕日の差し込む窓の外を一瞥し、アナスタシアはポットの湯が温まるのを待ちながら、紅茶の準備をしていた手を止めた。
(落ち着いたかしら…)
このホテルに着くなり、優は「疲れたから寝てくる」と、割り当てられた部屋へ閉じこもったきりで、一回も姿を見せていない。気が落ち着くまで待つつもりだったが、もう何時間も出てくる気配が無いので、見兼ねて先程メイファが呼びにいったところだ。
「……」
その時、ポットが甲高い声で鳴き、アナスタシアは現実に引き戻された。自分とメイファの分、そして優の分も用意し、買ってきた茶菓子の封を切る。
「アナスタシアー」
そんな声と共にがちゃりと扉が開き、メイファが戻ってきた。
「メイファ」
「ただいまアルー」
駆けて入ってきたメイファに続く者は、いない。
「優は…」
「寝てるみたいヨ。ノックしても返事無かったから戻ってきたアル」
「…そうですの」
ソファに座って足をぶらぶらさせているメイファに紅茶を差し出し、アナスタシアもその前に腰を下ろした。
「シンとエドガーは、どうしているのかしら…」
「エドガーならさっき外で煙草吸ってたヨ。シンは…あんなやつ知らないアル」
「…メイファ──」
「だってそうアル!」
諌めようとしたアナスタシアの声を遮り、メイファは顔を上げた。わなわなと震える、唇。
「シンだけアル、優が女神だって事を気にしてるの!空気重いの、そのせいヨ!アナスタシアだって気付いてる筈アル!」
「……」
「優は優ヨ。それだけじゃ、駄目アルか?」
「…シンの立場を考慮したら、仕方ありませんわ」
ややあって、アナスタシアはそう無難すぎる答えを返すのが精一杯だった。
「だったら…やっぱり異端審問官なんか嫌いアル」
膝を抱え、メイファは呟いた。
それは優を優として見ていないシンに対する感情か、はたまた「民族浄化」に対する想いなのか──。
どっちにしろ、そう呟いたメイファの気持ちも、分からないでも無かった。