黙示録 -Apocalypse-
□第十一章
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結局、フランスに辿り着いたのはそれから三日経った後だった。
その間、汽車の旅は順調に進み、あの化け物達も襲ってくる事はなかった。
「おー。ここが花の都パリか」
「こんな機会でなかったらお買い物するのに…」
立ち並ぶブティックを馬車の中から眺めつつ、アナスタシアは残念そうに呟く。やがて見覚えのある通りに出て、優は身を乗り出した。
かつて尖塔がそびえ立っていた土地は未だ瓦礫の山が積まれ、立ち入り禁止のテープが張り巡らされている。その横にある音楽院はあえて視線に留めぬよう努め、優は薔薇十字団跡地を眺めながら、心の中で懺悔と冥福を祈った。
御者に料金を支払い、瓦礫の山を仰ぐ。いつ建てられたのか、かつて正門があった場所には慰霊碑が立てられ、手向けられた花束と共に、祈りを捧げる人々が後を絶たないようだ。
「こりゃまた派手に崩壊したんだなぁ」
感慨深げに呟くエドガーの横を、メイファが駆け抜ける。止める間もなくテープの下を通り、あっという間にメイファの姿は瓦礫の影で見えなくなった。
「…メイファ!?崩れますわよ!」
アナスタシアの声を背に聞きながら、メイファはぐるりと周囲を見回す。360度瓦礫の山の中には、誰の気配もしない。音をたてて吹き抜けた風は、彼の存在を知らせるものとは違う、別の風である事をメイファは悟った。
「…いるわけ、ないよネ…」
いない方がいいのだ。彼は、自分達とすれ違いになる事を望んでいたのだから。
遠くから優達の足音が聞こえてきて、メイファは諦めて振り返ろうとした。その時だった。
「!」
突如としてメイファの足元が輝いたかと思うと、下から押し上げられるような凄まじい圧力にメイファの体は空中に放り投げられた。
「メイファ!!」
優の声が轟くが、エドガーに難なく抱き留められる。最小限の衝撃に、メイファは傷一つ負う事はなかった。途端、響く、独特的な甲高い笑い声。
「──きゃはははっ!そのまま死んじゃえばよかったのにー!」
「ルカ!?」
「…おいおい、まーたあのやかましいお嬢ちゃんか」
メイファを下ろすと同時に、エドガーは懐から小型の銃を取り出した。
一際小高い瓦礫の上に佇み、ルカはこちらを見下ろしたまま笑っていた。彼女の周囲を魔力が渦巻き、激しく瓦礫を擦っている。
「ここは、関係者以外立ち入り禁止だよ!きゃははっ、罰として全員死刑ー!!」
ルカが得物を回転させると同時に、優達の周囲を闇色をした障壁が取り囲んだかと思うと、直後それは大爆発を引き起こした。
悲鳴と共に、皆は吹き飛ばされる。頭を強打し、苦悶に身を捩るメイファの眼前にニーソックスに覆われた足が降りてきた。