黙示録 -Apocalypse-

□第四章
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「鎮圧ご苦労であった、司祭シン」


朗々と威厳ある声が高い天井に吸い込まれるのを聞きながら、シンは跪いて頭を垂れ、そんな作法を一切知らない優とメイファは、立ち尽くしたまま目の前の男を見つめていた。

枢機卿──薔薇十字団の中でも中枢的役割を担う機関の事は、優もニュースで聞いた事があった。そして、その枢機卿の中で重要な位置にいる預言者と呼ばれる者達の存在も。

目の前の男──クレールも、その預言者の中の一人なのだと、シンは教えてくれた。

老成した雰囲気を醸し出すその男は、シンの報告を聞いているようだ。年齢はゆうに50は超えているのだろう。それでも長いローブに包まれた体は一切の衰えを感じさせず、報告を続けるシンを見下ろす鳶色の瞳は、至極穏やかであった。

「──以上になります、預言者クレール」
「そうか。治安悪化の防止は、後に枢機卿内で思案しよう。──さて」

クレールは優達に視線を移した。

「多少の事なら話は伺っている。サン・ジェルマン音楽院の者らしいな」
「あ…はい、一応そうなりますが、実際に音楽院で勉強させて頂くのはまだ先になります」
「アジアンだというのに、なかなか立派だな」

その言葉に、優は眉を寄せた。ここに来て幾度も言われたその言葉に、いい加減優も苛々していた。

「そのアジアンだからって言い方、やめてくれません?いい加減頭にきます」

気が付いたら、そう言っていた。
優の発言に、跪いたままシンはぎょっと振り返る。咎めるような視線を感じたが、優に訂正する気は更々ない。

「く──ははははっ!」

思いがけずクレールは笑い、シンは呆気に取られて上司の姿を仰ぎ見た。

「いやいや、なかなかはっきり言うお嬢さんだ。そういうつもりはなかったんだが…気分を害したのならば謝ろう」
「ええ全くです」
「おい、優──!」
「落ち着きなさい、シン」

腰を浮かしかけたシンを、クレールは制す。

「私は意志の強い者は好きな性分でね」

クレールはすっと前に進み、優の前方で立ち止まると、すうっと目を眇めて彼女を見た。

「…不思議な力を感じる」
「…は?」

素っ頓狂な声を上げた優に構わず、クレールは目を閉じると、優の眼前に掌を突き出した。展開についていけず困惑する優を尻目に、その突き出された掌に柔らかな光が収束したかと思うと、空気中を波紋のように光の波が伝わっていくのを見た。

「な、に……っ」

その瞬間、耳鳴りにも似た音が脳を揺るがし、突如優の体は崩れ落ちた。
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