黙示録 -Apocalypse-

□第三章
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「お、お尻痛い……」


見覚えのある尖塔がシンボルのパリの街に到着し、馬車から停車広場に降りるや否や、優はそう呟かずにはいられなかった。

チャイナからユーラシア大陸横断鉄道に乗り込み、それからポーランドとドイツ国境で馬車に乗り換え、優達はやっとの思いでフランスに到着する事が出来たのだ。

旅──主に列車での旅は、想像以上に過酷なものであった。

列車に乗った一日目くらいは、優もメイファも窓の外を過ぎていく壮大な大自然やワゴンによって運ばれてくる多種多様な食事にひたすら歓喜の声を上げていたが、一日一日と日が経過していくにつれて、それは徐々に薄れていった。

二十四時間運行している列車の中ではよく眠れず毎日が寝不足。更には備え付けられている寝台もお世辞にも広いとはいえない広さで、朝起きる頃には体中が痛くなっており、疲労は溜まる一方だった。

初めの頃こそ騒いでいた優も日にちが経つにつれて口数は減り、メイファはただ窓の外を過ぎていく景色をただ眺めているだけの状態であった。

その中でも、シンだけは相変わらずであった。
男子故優とメイファとは違う部屋で睡眠を取っているが、朝食の時間に顔をあわせても彼は少しも寝付けなかった様子は見せなかったのだ。

男子の寝台は広いのかと思い優はシンに問いただしたが、シンは「そんなわけねーよ」と優を一蹴した。

その答えに優はいまいち腑に落ちなかったが、彼が異端審問官として鍛錬を積んでいる事も関係しているのかもしれない、と思い改める事にした。あれから優も少しではあるが、薔薇十字団や異端審問官について知識を得たのだ。

薔薇十字団というのは西欧諸国が創立した一種の教団なのだそうだ。神を崇め、敬い、旧世紀の核戦争の後、世界が再建したのも神による恩恵の賜物だと信じて、ひたすら神に感謝の念を捧げる。

いまや西欧諸国の人口統計においては薔薇十字団の教徒が殆どで、成る程、西欧諸国が科学技術推進国を徹底的に異端と見なす理由もよく分かる。

その教団に所属する精鋭部隊を「異端審問官」というのだという。

彼らは西欧諸国の治安を維持し、布教活動を行い、教団の中でも敬虔な信者達の集まりらしい。また、戦闘能力にも長け、魔法の論理が大衆化している西欧諸国の中でも、最先端の能力を誇るのが彼ら異端審問官なのだそうだ。

そんな彼らを突き動かす理念は、科学技術推進国に対する徹底的な弾圧意識である。

異端審問官という名称もそこから発祥しているらしい。数年前の「民族浄化」の際、科学技術推進国の国民を手当たり次第に捕らえ、処刑していったのは彼ら異端審問官なのだ。

幸いジャパンにその波が来る直前で「民族浄化」は急速に衰えていき、優達ジャパニーズにとって、異端審問官の脅威は正直どこか絵空事に感じていた。
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