黙示録 -Apocalypse-
□第二章
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「うっわぁ……」
イギリス郊外の国際空港に降り立ち、それから旅客船を経由してフランスの首都、パリに到着した優は、酷い疲労を感じながらも、その街並みを仰いで呆然とした。
きれいに舗装された石畳の街道の脇には、様々なブティックが立ち並び、あちこちにはみずみずしいばかりの緑がある。馴れない長旅の疲れも吹っ飛んでしまう程の美しさだ。
(…凄い、凄い凄い!あれって凱旋門だよね、って事はここシャンゼリゼ通りだよね!)
雑誌の特集などでしか見た事のない、目の前に広がる花の都の景観に、優の心は踊るばかりだ。
荷物を宿泊先のホテルに預け、優は学校のバッグ片手にパリの街を観光する事に決めた。
旧世紀の核戦争の後、真っ先に再建したのはこの街らしい。パリは今や世界でも有数の都市だ。
物珍しそうにしながら歩き、優は休憩がてら美しく整備の施された公園の噴水の脇に腰を下ろした。
その時、ポケットの中から聞き覚えのあるメロディーが流れ、優は携帯電話を取り出した。
(…メール?誰──)
新着メール欄に、母の文字。
「……」
迷う事なく消去ボタンを押し、優は携帯をポケットの中に戻した。
一気に、気分が盛り下がる。
盛大に溜め息をついた優だったが、ふと周囲の人々の間に妙な緊張が漂ったのを感じ、何事かと顔を上げた。
公園の入り口に数人の人間がいる。
否、それだけであったら特に気にとめるものでもないだろう。ただ、彼らは皆一様にして黒の外套を身に纏い、翻る裾には白い十字架の模様が幾つもあしらわれていた。
そんな彼らは、真っ直ぐに優のもとへと近付いてきている。
「…薔薇十字団の異端審問官だ」
誰かが、そう呟くのが聞こえた。そこから感じ取れるのは、尊敬と敬愛の念だ。
成る程、薔薇十字団という名だけあって、黒衣の外套には、白い十字架に薔薇と蔦が絡み合った胸章が掲げられている。
彼らは優の前で立ち止まり、その顔を伺おうとして優はぎょっとした。
その理由は、彼ら全員が仮面をしていたからだ。顔全体ではなく、目元だけを隠すような陶器のように真っ白いそれは、優に異質さを感じさせた。
やがて、その中の一人が口をきいた。他の異端審問官とは違い、目元の縁に金細工が施されている。
「国籍は?」
淡々としたどこか偉そうな物言いに、優の眉間に皺が寄る。