黙示録 -Apocalypse-

□第十五章
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祖国に一度帰ったあの時から、アナスタシアは幾度となくこの夢にうなされた。
在りし日の情景を物語るような、温かくて優しい夢。そして、現実を知らしめるような残酷な夢。

触れる事の叶わないまま、溶けるように消えていく彼に、自分はただ一人、慟哭するだけ。

そんな夢をここ連日見せられ、それだけでも相当気分がまいっていたと言うのに、今日、夢は更に残酷になった。

微笑みは消え、冷酷な双眸が自分を見据え、そして彼の手によって額を貫かれて葬り去られたのだ。

「…っ」

ぎゅっと、アナスタシアはシーツの上で拳を握り締めた。
貫かれた衝撃は大きい。だが、それよりも何よりも、ある映像がアナスタシアの網膜にこびり付いていた。

(始祖…)

何故、よりによってそれと重なっていたのか。妙な胸騒ぎを覚え、アナスタシアはその考えを打ち消した。

その時、優が未だ不安そうに覗き込んできている事に気付き、アナスタシアは取り繕うように笑った。

「有り難う、優。もう平気ですわ」
「…本当に?」
「ええ」
「……」

その答えに、優はいまいち不服そうな顔のまま、それでも大人しく己のベッドに戻っていった。

「…前から思ってたんだけど──」
「?」

ベッドに寝そべり、メイファを起こさぬように声を潜めて優は口を開く。

「アナスタシアのピアス、なんで一つだけなの?」

恐らく、それは単なる興味本位によるものだったのだろう。それでも、だからと言って頬が強張るのをアナスタシアは抑えきれなかった。ちゃり、と、耳の傍でピアスが小さく鳴く。
アナスタシアを取り巻く雰囲気が変わったのを察し、優は慌てて口を開いた。

「あっ…ご、ごめん、アナスタシア…!その…──!」

ひどく慌てている優に、くすりとアナスタシアは笑った。

「まぁ。どうして謝りますの?謝るような事、一つもしていませんのに」

言って、アナスタシアは片耳で揺れるピアスにそっと指を這わせた。慈しむように、愛しいものを撫でるように。
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