黙示録 -Apocalypse-

□第十二章
3ページ/14ページ

(ムカつく)

心の中で呟き、舌を打つ。

そう──ムカつくのだ。
未だ整理のつかない頭も、掴めないままのこの状況も、そして、優にあんな顔をさせてしまった自分自身も。
よって、いつものエドガーの態度も、今のシンにとっては苛々を募らせる要因に他ならない。

「随分辛気臭い顔してんな」

揶揄の含まれた声色に、シンは煩わしげに舌を打つ。

「うるせぇ。あんたには関係無いだろ」
「いつまで引き摺るつもりだ?あのシスターに何言われたか知らねぇが、お前の思いが真実だ」
「……」

知らず、シンは奥歯を噛み締めていた。余裕の含まれたエドガーの声色が、何故かひどく耳障りだった。

「お前にとってあいつは女神なんだろ?だったらそれでいい。今まで通り崇め、讃え、敬えよ。お前らの得意技だろ?」
「…」

うるせぇ、黙れよ。

声には出さず、シンは心の中で呟いた。握る拳に力がこもる。

「躊躇う事はねぇ。今までだってずっとそうだったんだ。なのに、女神の拠り所を見ただけで、どうして女神に対する想いが変わる?お前の信念が揺らぐ?お前は何を怖がっている」
「…怖がる?」

予想だにしなかった言葉に、拳から力が抜ける。顔を上げた先、自分を見据えるエドガーの瞳は揺らがない。
ベッド脇の椅子を引き、エドガーは座った。

「何が怖い?このまま女神と優を同一の存在と思う事が?女神を想う事が同時に優を想う事に繋がるからか?」
「…」
「答えろよ」

苦虫を噛み潰したような表情で押し黙ったシンに、エドガーは答えを促す。

「…あの時──」

わななくように息を吐き、シンは重苦しい静寂を打ち破った。

「…イヴは、俺に言ったんだ。俺が守りたいのは優じゃなくて女神だ、って」
「事実だろ」
「──だけど!」

弾かれたように、シンは顔を上げる。彼にしては珍しく動揺に揺れる碧眼に、エドガーは珍しいものでも見たかのように目を眇めた。

「そうじゃないんだ!その…うまくは言えないけど違うんだ!俺は、たったそれだけの感情でいたわけじゃない!」
「……」
「俺だって、訳分かんねぇ…。でもそれだけは確かなんだ」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ