黙示録 -Apocalypse-
□第十二章
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(ムカつく)
心の中で呟き、舌を打つ。
そう──ムカつくのだ。
未だ整理のつかない頭も、掴めないままのこの状況も、そして、優にあんな顔をさせてしまった自分自身も。
よって、いつものエドガーの態度も、今のシンにとっては苛々を募らせる要因に他ならない。
「随分辛気臭い顔してんな」
揶揄の含まれた声色に、シンは煩わしげに舌を打つ。
「うるせぇ。あんたには関係無いだろ」
「いつまで引き摺るつもりだ?あのシスターに何言われたか知らねぇが、お前の思いが真実だ」
「……」
知らず、シンは奥歯を噛み締めていた。余裕の含まれたエドガーの声色が、何故かひどく耳障りだった。
「お前にとってあいつは女神なんだろ?だったらそれでいい。今まで通り崇め、讃え、敬えよ。お前らの得意技だろ?」
「…」
うるせぇ、黙れよ。
声には出さず、シンは心の中で呟いた。握る拳に力がこもる。
「躊躇う事はねぇ。今までだってずっとそうだったんだ。なのに、女神の拠り所を見ただけで、どうして女神に対する想いが変わる?お前の信念が揺らぐ?お前は何を怖がっている」
「…怖がる?」
予想だにしなかった言葉に、拳から力が抜ける。顔を上げた先、自分を見据えるエドガーの瞳は揺らがない。
ベッド脇の椅子を引き、エドガーは座った。
「何が怖い?このまま女神と優を同一の存在と思う事が?女神を想う事が同時に優を想う事に繋がるからか?」
「…」
「答えろよ」
苦虫を噛み潰したような表情で押し黙ったシンに、エドガーは答えを促す。
「…あの時──」
わななくように息を吐き、シンは重苦しい静寂を打ち破った。
「…イヴは、俺に言ったんだ。俺が守りたいのは優じゃなくて女神だ、って」
「事実だろ」
「──だけど!」
弾かれたように、シンは顔を上げる。彼にしては珍しく動揺に揺れる碧眼に、エドガーは珍しいものでも見たかのように目を眇めた。
「そうじゃないんだ!その…うまくは言えないけど違うんだ!俺は、たったそれだけの感情でいたわけじゃない!」
「……」
「俺だって、訳分かんねぇ…。でもそれだけは確かなんだ」