黙示録 -Apocalypse-

□第三章
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「この通路の突き当たりにある階段を使って三階にあるホールまで向かって下さい。教授陣がお待ちです」
「はい。ありがとうございます」

シンとメイファに、行ってくるね、と告げ、優は走って通路の奥へと消えていった。

受付の女性に指示された通り、優はホールの扉を見つけて開け放つ。小規模のホールにはずらりと貫禄のある外国人が居並び、一斉に降り注いだ視線に優はたじろいだ。

「あ…、えと…」
「何用だ?」
「あの…ジャパンから来ました、加護優です」
「ユウ・カゴ?──ああ、聞いていたよ。入りなさい」

頭を下げ、優は教授陣の居並ぶホール内に入った。どうすればいいか迷っていると、教授陣の中でも初老の男性が机上にあった書類を捲った。

「成る程…。ジャパンでの成績は上々だね」
「ありがとうございます」
「だが、我々は実際この耳で君の演奏を聴いた事はなくてね」
「演奏しろという事ですか?」
「話が早い」

男性は皺を深めて笑った。

「ここは演奏技術の最先端を誇る音楽院だ。皆、君の演奏を聴いてみたいのだよ。袂を分かった国の者が障害を越えてまでこの音楽院で学ぶ資格があるかどうか、我々の耳によって見定める」

舞台に証明が灯され、グランドピアノの姿が浮き出る。成る程、と優は小さく呟いた。

(…呼んだのそっちの癖にね。プレッシャーかけて、これで弾けなくなる奴は帰れって事か)

妙に冷静な頭で考え、優は教授陣に背を向けると舞台に上がった。
自分を見据える教授陣に深々と一礼をし、椅子に座る。

今まで幾度となく行ってきた一連の作業。優はスポットライトを浴びて輝く鍵盤を見つめた。

「……」

この位置に来ると、嫌でも気持ちは向上してくる。何度も何度も繰り返してきた事だ。

(嫌いじゃない)

嫌なのは、自分の思い通りの演奏をしなかったら怒鳴りつける母のみ。

今、この空間に母はいない。
晴れやかな気持ちで優は鍵盤に手を添えると、軽やかに指先を躍らせた。



◇◇◇



「暇ネ」

受付前に設置されてあるソファに腰掛け、ジュースの入った紙パックを両手で持ち、メイファは心の底からと言った風に呟いたが、シンは聞こえない振りをして紅茶を口に含んだ。
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