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□第二十六章
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だが、そんな視界の悪い状況の中でもラファエルは的確な動きで、アシュトンに向けて一閃する。
「くっ!」
辛くもそれを防御し、アシュトンは彼の長剣を弾いて後方に跳ぶと、そのまま反動を付けて凄まじい回し蹴りを喰らわした。
「体術で勝負するのか?」
だが、それは容易く受け止められる。足を取られ、アシュトンは忌々しげな表情を浮かべたまま、開いている掌に霊力を凝縮した。
「──吹き飛べっ!」
一気にラファエルの体に叩き込む。霊力の凝縮されたそれはラファエルの胸で力を一気に放出し、その際に生じたエネルギーによりラファエルの体は吹き飛ばされた。その先は、マントルの渦へと続く断崖の絶壁である。
だが、ラファエルは器用に空中で体を回転させると、その場にすたりと降り立った。
「残念だったな。あともう少しであったのに」
「…一つ尋ねさせて下さい」
ラファエルが口を開くよりも早く、アシュトンは続けた。
「どうしてあなたは生きているのです」
「以前答えた筈だ。レイチェル様が私を生かして下さったとな」
「それがどうも納得いきません。レイチェルに、死者を蘇生させるような能力があるとでも?」
「そうでなければ、今私はここにいない」
ラファエルは天を仰ぐ。
「あの戦闘の折、私は確かに貴様に殺された」
中央大陸全土を戦禍の渦に巻き込んだ、忌まわしい戦争。
その最大の激戦地、ギルフォードで、リンガイア軍とロマリア軍は長期に渡り、地獄のような戦闘を繰り返していた。
そんな中での激しい攻防戦の末、ラファエルの胸を貫いた銀の刃。
意識が途切れるまで時間を要し、壮絶な痛みを感じながらもラファエルはひどく緩慢とした動作で、自身に致命傷を負わせた、目の前の鮮血にまみれた銀髪の少年を見下ろした。
少年は無感情とも言える動作で槍を引き抜く。瞬間、堰を切ったように鮮血が溢れ出し、ラファエルは抗う術もなく、血に染まった大地に倒れ伏した。
その時、意識が途切れるまでに感じていた感覚。
体から血液が流れ出し、思考を薄く霞ませていく。抗おうにも抗えない。
「あれは死だった」
死に満たされていく感覚を今でも覚えている。
「次に気付いた時、私は神殿の中だった。神が私を生かして下さった、貴様を殺す機会を与えて下さった」