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□第七章
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「…、…ルシ…?」

ベッドの中から聞こえた弱々しい声に、ルシオはベッドを覗き込んだ。梨乃の瞼が微かに痙攣し、うっすらと開かれた瞼の内側から、ぼんやりと栗色の瞳が覗いた。

「梨乃──」

梨乃の栗色の瞳が、ルシオを捉えた瞬間、梨乃は弾かれたように体を起こし、だが、傷口が傷んだのか、小さく呻いて背中を丸めた。

「…ったぁ。──ルシオ?もう、大丈夫なの?」

おもむろに頷いたルシオに、梨乃の顔がみるみるうちに歪み、ぼろぼろと涙が溢れた。

「よかった…。あたし、すっごい心配したんだからね…!もう…っお願いだから絶対一人で無茶な事しないで!」
「…」

普段のルシオなら、恐らくここで「泣くな!」と喝を飛ばしただろう。

だが、今回は違った。ルシオは唇を噛み締めたまま、膝の上で強く握った拳を震わせていた。

「…どうしてお前は、そんな事が簡単に言える」

血を吐くように呟かれた言葉に、梨乃は声を詰まらせた。

「どうしてっ、て…──」
「覚えてないわけがないだろ!?僕はお前を殺そうと──!」

だが、ルシオの言葉はそれ以上続かなかった。額に軽い衝撃が走り、目を白黒させているルシオの目の前には、ぴんっと向けられた梨乃の指。

そこでルシオは、梨乃にデコピンされた事を初めて悟った。

「ばーか」

梨乃は、唇を尖らせる。

「何でもかんでも一人で抱え込まないで。何のためにあたしらがいると思ってんの?ルシオがあたしを殺そうとしたのもルシオの意思じゃないし、ルシオの本名が何であろうと関係無いよ」
「!それはお前が──!」
「この世界の人間じゃないからって言いたいの?確かにあたしは違うけど、それが何だっての。あたしにだって分かったよ、ルシオの意思でミッドガルドを破壊したんじゃないって事。みんなみんな、ジーンただ一人のせいじゃん」
「だが…──!」
「はい、もうこの話はおしまい。あたし達をちゃんと頼って。仲間でしょ?」
「……」

納得したと取ったのか、梨乃は嬉しそうに笑った。

「はい、約束ね」

ずい、と、立てた小指を突き出されて、ルシオは目を白黒させた。
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