.
□第七章
4ページ/23ページ
「レイチェルから全て聞いたんだろう?憎いなら憎いと言え。同情するな、吐き気がする」
「ルシ──」
「うるさい!!」
びくり、と背筋が張る。
荒げた声とは裏腹、ルシオは苦悶に歪んだ顔を隠すように腕で覆った。
「頼むから、こっちを見るな…。すぐに消える…だから──!」
それ以上、彼は口を開こうとしなかった。
「…あなたがそうしたいんだったら、私は止めない」
ややあってプリシスは、静か過ぎる声で告げた。
「でもね、梨乃が目覚めるまで待ってあげて。梨乃はね、きっとルシオの一緒にいたい。だから、彼女と話してからにしてあげて。それがすんだらあとはルシオの思う通りにしていい。私も止めないから」
「…」
「でも、これだけは覚えていて」
ルシオの顔が、おもむろに上げられる。プリシスは、笑った。
「あなたはルシオだから。レイチェルを止めるまで一緒に戦う私達の仲間だから」
そう言い、プリシスはもう一つのベッドで眠り続けている梨乃に目をやり、小さく笑った。
「これ以上は何も言わないから。もう少しで梨乃も目覚める筈。私達は向かいの部屋で待ってるから。何かあったら呼んでね」
手を振って、プリシスの姿は廊下へ消えていった。
「……」
ルシオはベッドの縁に腰掛け、恐る恐る隣のベッドを覗き見た。
「……梨、乃……」
掠れたその声にも、梨乃は一切の反応を返さない。
傍らの机に丁寧に畳まれている彼女の服には、血は付着していなかったが、眠る梨乃の肩に巻かれている包帯には、生々しく新たな鮮血が滲んでいた。
恐る恐手を伸ばし、彼女の包帯に触れようとしたが、寸でのところでルシオは腕を引き戻した。
「僕が…──」
(やったのか)
その時の記憶は、全く無かった。
だが精神操作が解けた時、血にまみれた双竜刀と、同じく血に染まった梨乃の肩が生々しく飛び込んできて、それが、全てを物語っていた。
「………ごめん」
一度ついで出た言葉と共に、思いは溢れるように湧いてくる。
「ごめん…ごめんな…梨乃……」
熱くなっていく目尻と共に、言葉がどんどん溢れてくる。
その時だった。